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オールドメディアが伝えない海外のニュース

保守論客による事実誤認:LGBTQの「Q」は何を意味するのか?

テレビや新聞などのオールドメディアが、偏向報道や誤報を続けていることが広く世間に知られるようになったのは、ネットメディアの隆盛が大きく貢献していることは間違いない。ネットメディアでは地上波に登場しないような保守の論客が活躍している。テレビや新聞が報じる嘘を彼らが指摘し、それを論破する姿勢は痛快だ。

しかしそんな貴重な視点を提供してくれるネットメディアの論客たちも常に真実を語るわけではない。彼らが主張する内容についても、視聴者は事実かどうか自分たちの目で確認する必要がある。メディア・リテラシーを高めるということは、どんなメディアから流れてくる情報に対しても多少の疑いの目を持って見るということから始まる。オールドメディアの嘘を暴いてくれたネットメディアでも、そこから流れてくる情報を鵜呑みにしてしまっては、メディアとの付き合い方の失敗を繰り返してしまうことになる。

日本の外務省で元駐ウクライナ兼モルドバ大使であった馬渕睦夫大使(現在は吉備国際大学客員教授)は、国際情勢の専門家としてネットメディアによく出演されている。馬渕大使が語る国際情勢の分析は、深い歴史的背景や専門知識に裏打ちされて説得力があり開眼させられることが多い。特にノンフィクション作家で中国政治が専門の川添恵子氏との対談は、テレビでは絶対に見ることができないような情報分析が行われるので海外から見られる日本の番組として楽しみにしている。

しかし先月5月30日に配信された馬渕大使の動画であまりに事実誤認である内容を発言されていて驚いた。それは最近日本でも知られるようになった「LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーを意味する頭文字)」について話題が及んだ時だ。

 

 

この動画の中で馬渕大使は次のように語っている:

馬渕大使:今ね、アメリカとかヨーロッパではLGBTにQがつくんですね。日本ではLGBTで終わってるんですが、Qっていうのは何かっていうと、Queerって言うんですが「変態」って言う意味ですよ。

水島総氏:変態っていうのは覗きとか、

馬渕大使:覗き見もあるし、まあ痴漢も含めてそれも入る。それは性指向は何をやっても自由だということですよ。そこまでいってるんですよ。そうそれにもう一つIが入るっていう、インターなんとか、もうどんどんわかんなくなるんですけど。

水島総氏:変態まで守らなければいけない少数者なんですか?

馬渕大使:(略)変態だって言ったら差別になるっていうことですよ。ま、そこまで行っちゃったんですね。これにはもちろん背景があって、そういう風にして秩序を壊すと。秩序を壊すためにまず最初にやることはね性秩序を壊すことなんですよ。性秩序を壊すと必ず社会の秩序が壊れるんですね。で、これはご承知のようにまずロシア革命の時にやったんですよ。(後略)

 

この馬渕大使の発言は完全な事実誤認だ。

「LGBTQ」の「Q」は、「queer」もしくは「questioning(自問している人)」を指していると言われる。そして英語の辞書にあるqueerの元の意味には、確かに「奇妙な(strange)」や「変な(odd)」などが掲載されている。

しかしこれは同性愛者たちが偏見や差別を受ける時に言葉の暴力として、昔、そして今でも使われる差別用語queerを、逆に自分たちのアイデンティティを指す言葉として使い、社会から投げつけられる言葉の暴力を乗り越えようとする葛藤の現れだと言われている。もちろん、差別用語として使われはじめたため、LGBTの人たちの中には、自分たちのことをqueerと呼ぶ風潮を快く思っていない人たちもいることが指摘されている

奇しくも6月は「プライド月間」と呼ばれ、アメリカをはじめ世界各国でLGBTQへの差別を無くそうという行進やフェスティバルが開かれている。今週6月28日は、そのきっかけとなったニューヨークの「ストーンウォールの反乱」からちょうど50年目の節目にあたり、全米のニュースでも特集が組まれるほど。

しかし、アメリカで生活していて、LGBTQに「痴漢」や「覗き見趣味」のような人たちまで含まれるなど聞いたことがない。アメリカでも「痴漢」や「覗き見」は厳然として違法行為であり、それを合法化しようというような活動は世界のどこを見ても存在しないだろう。

長年アメリカで生活していると、学校での同級生や会社での同僚、ご近所さんとしてLGBTQの人と知り合いになることは日常的なことだが、彼らからもLGBTQのQが馬渕大使が言うような「変態」まで含むとは聞いたことがない。

馬渕大使は、LGBTQのQの意味を辞書で引かれ、そこに掲載された意味だけで「変態まで含まれる」と誤解されたのではないだろうか。

馬渕大使は「ディープステート」という言葉がお好きなようで、ネット番組を見ていると社会をコントロールする、表舞台からは見えない存在のことを語られることがある。人権問題や地球温暖化問題など、一見正しいことを主張しているように見えて、実はそれとは異なる目的のために社会に影響を及ぼそうとしている活動家や政治家がいるのは確かだろう。LGBT問題もそんな活動家や「ディープステート」に利用されているということを馬渕大使は言いたかったのかもしれない。

しかしそれにしては言葉が足りないどころか事実誤認が甚だしい。せっかくオールドメディアが伝えない真実の国際情勢を伝えていたとしても、一つ思い込みで間違ったことを発言してしまっては全ての発言内容の信憑性を毀損してしまう。

ネットメディアには、オールドメディアの嘘を暴く「正義」を見つけることができるが、そんなネットメディアにも嘘や誤認情報が溢れ玉石混交であることを忘れてはいけない。

 

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