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米ナンシー・ペロシ下院議長は米国史上最悪の政治判断ミスを犯したのか?:トランプ大統領を弾劾する手続きを正式に発表

Nancy Pelosi

アメリカ民主党の重鎮であるナンシ・ペロシ下院議長。彼女の長年の政治家人生において、最大の賭けに出ている。今週9月24日、ペロシ議長は「ウクライナ疑惑」を根拠にトランプ大統領に対する弾劾手続きの審理を正式に開始すると発表した

 

もし弾劾裁判が成功すれば、彼女はトランプ大統領を任期途中で引きずり下ろした「功労者」として記憶されることになる。民主党も、彼女を英雄として生涯讃えることになるだろう。しかし弾劾裁判が不発に終わり、トランプが2020年の大統領選挙で再選することになれば、彼女が始めた弾劾裁判がその責任を問われることになり、今度は彼女が下院議長としての職を追われることになるかもしれない。また、トランプの再選を招いた張本人として、民主党支持者らからも一生、悪者扱いされる可能性すらある。

 

ナンシー・ペロシ議員にとって、それほどトランプ大統領に対する弾劾手続きの審理を始めるということは大きな「賭け」となっている。

 

現時点で、世論調査ではほとんどのアメリカ国民が弾劾手続きを始めて欲しくないと考えているという結果となっている。左派系ニュースメディアであるPoliticoとMorning Consultが実施した世論調査では次のような結果となっている:

 

 

トランプがジョー・バイデン元副大統領を捜査するようウクライナに圧力をかけたとされる報道が流れた先週金曜から土曜にかけて、この世論調査は実施された。バイデン副大統領は、トランプ大統領の再選を防ぐために民主党から立候補している政敵の1人。同世論調査によると、回答したアメリカ人の36%が、連邦議会はトランプ大統領に対する弾劾手続きを始めるべきと回答している。

 

弾劾の賛成派はその前の週の37%から下がっている。一方、回答者のおよそ半数となる49%が連邦議会は弾劾手続きを行うべきではないと回答した。これも、前の週から1ポイント下落している。

 

この他の世論調査でも似たような結果となっている。しかし、これら以外の世論調査の中で一件だけ、もし「トランプが大統領の権限を使って外国の首脳に対して政敵を追い落とすことを手助けするよう圧力をかけた」ことを示す証拠があるなら、ほとんどのアメリカ人有権者は弾劾手続きを支援すると回答している世論調査がある。

 

火曜日、下院議長のナンシー・ペロシ議員は、ウクライナに関する論争に反応し、トランプに対する正式な弾劾のための審理を開始すると発表した。YouGovが行った世論調査によると、もしトランプが大統領権限を使って、外国の首脳が彼の政敵を追い落とすために支援するよう強要したなら、55%のアメリカ人成人が、トランプ大統領を政権の座から追い出すことを支持すると回答している。

 

調査に参加した人のうちの44%は、容疑が事実ならばトランプを政権から追い出すことを「強く支持する」と回答し、また別の11%が「ある程度は支持する」と回答している。

 

 

しかし全米レベルで見ると、ペロシ議長が行った決断は大きな支持は得られておらず不人気であり、弾劾手続きの審理を正式に始めたことは、民主党にとって有権者を失う可能性がある危険な賭けとなっている。

 

さらに最悪なのは、民主党が中間選挙で勝利した票田地域で弾劾は人気がないということだ。郊外に住む国民の大多数が、弾劾プロセスを開始することに反対している(賛成35%/反対50%)。また地方ではさらに差が開いている(賛成27%/反対59%)。都市部に住む国民の間では拮抗している(賛成47%/反対35%)。アメリカ南部(賛成33%/反対53%)、中西部(賛成36%/反対48%)、そして民主党が多い東北部(賛成37%/反対48%)では、弾劾賛成は2桁の差をつけられて不人気となっている。

 

 

さらに、ペロシ議長にとってこれが大きな誤りとなる可能性がある理由は、弾劾手続きを開始したことにより、ウクライナ疑惑に有権者の耳目が集まることで、民主党から出馬し首位を走っているバイデン元副大統領にとってダメージとなる可能性があるためだ。いわゆる「ブーメラン」というやつだ。

 

バイデン元副大統領親子に関する汚職疑惑は、数年前から一部保守系のメディアで報じられていたが、全米の大手メディアが報じることはなかった。しかし、突然、全米のメディアはバイデン元副大統領、その息子のハンター・バイデン、そしてウクライナが関わった汚職疑惑を報じるようになっている。多くの有権者が、実際に何が起きているのか、どういった疑惑が報じられているのか興味を抱くことになる。現時点では疑惑でしかないが、有権者の間でバイデン候補に対する不信感が高まる可能性は十分ある。事実、全米におけるバイデン候補への支持率は急落しており、それに代わって彼を追いかけているエリザベス・ウォーレン議員の支持率が急上昇している

 

民主党から2020年大統領選挙に立候補している候補者の

支持率推移

↑バイデン元副大統領(緑色のライン)が依然として首位を走る。それをエリザベス・ウォーレン議員(茶色のライン)が猛追している。

 

これまでバイデン陣営は、彼の息子であるハンター・バイデンとウクライナが絡んだ汚職疑惑から有権者の注意をそらすことに成功してきた。そのため、民主党の代表を勝ち取る最も有力な候補と目されてきた。しかし皮肉にもナンシー・ペロシ下院議長のおかげで、この民主党内の勢力図が一気に塗り替えられる可能性が現実味を帯びてきた。

 

もし弾劾手続きが失敗すれば、トランプ支持層は一気に活気付くことになり、彼の再選の可能性がさらに一層高まることにつながる。

 

ペロシ下院議長は、まさに伸るか反るかの大博打に打って出ている。マシュー・ウォルザー氏による意見記事がペロシ下院議長が直面した状況をうまく説明している:

 

ペロシ議員はこれ(弾劾)が人気を得ることはないことを知っている。彼女はそれ以上のことを理解している。彼女は、それが民主党にとって大災厄となり、大統領の支援者たちを激怒させ、乗り気しないがトランプを敢えて支持している層が激怒するきっかけを生むことを知っている。

彼女の政党(民主党)にとって2020年の選挙で運命を握っているミシガン州のような州において、弾劾についての質問は、世論調査で全く不人気であることも彼女は知っている。さらに、ジョー・バイデンが、(大統領選挙が行われるまでの)この先14ヶ月間、彼の息子であるハンターがウクライナで行なっていた活動について投げかけられる質問に対して回答することを拒否し続けることはできないことも、彼女は知っている。

また、副大統領がオバマ政権時代に行なっていた活動記録がより厳格に見直されてしまうことは、彼の信頼性を回復することにつながらないことも彼女は知っている。

2016年のプライマリー選挙の前後にヒラリー・クリントンのメール疑惑や講演料スキャンダルがそうであったように、これ(ウクライナの疑惑)がバイデンの候補者としての評判を固定してしまう前に、エリザベス・ウォーレンのような民主党からの候補者が、彼から民主党の指名者争いを勝ち取ることができると、彼女とその他の民主党の指導者たちは希望的観測を抱いているのかもしれない。

 

 

現実問題として、弾劾裁判は容易ではない。トランプ大統領を有罪にするには、上院で67名の議員の賛同を獲得しなければいけない。しかし上院における民主党議員の議席数は47議席しかない。

 

メディアを巻き込んで2年間も続いたロシアゲート疑惑であるが、その舌の根も乾かないうちに、次は「ウクライナ・ゲート疑惑」で民主党とメディアは大騒ぎをしている。信頼性があやふやな「スティール・レポート」でFBIが非合法な捜査を進めたかと思えば、今度は諜報機関に努める職員が「又聞き情報」を元に大統領を告発している状況は、アメリカの司法制度や諜報機関についてもその信頼性を失墜させる事態である。そして何よりも、アメリカの政治制度そのものが破綻してしまっていると思わざるを得ない状況が続いている。

 

今回の弾劾手続きの結果がどちらに転ぶにせよ、アメリカの政治史のなかで汚点として記憶されることは間違いない。

 

 

 

 

 

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