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WeWorkの大失敗をきっかけにSoftBankが行なってきたスタートアップ企業の会計処理に注目が集まる

Vision Fund

SoftBankの孫正義氏は、保有資産総額が2兆6670億円と、ファーストリテイリングの柳井氏に次いで日本第2位(昨年は第1位)だ。そんな資産家の孫氏が、1000億ドルもの資金を調達して2016年に立ち上げたビジョンファンドを通して、80社以上のユニコーン企業へ多額の資金を投資してきた。しかし過去5年間、ビジョンファンドが世界のスタートアップ企業に資金をばらまいたことで、世界的なスタートアップ・バブルが生まれる一因となった。そして今年、ビジョンファンドが投資したユニコーン企業の1社であるWeWorkが破産の危機に陥り、結局SoftBankが同社を救済することになった。このことは、現在のスタートアップ・バブルが頭打ちしたことを広く知らしめるシグナルになった。

 

そして今週、ブルームバーグ紙は、孫氏が行なってきたスタートアップ投資を検証する記事を掲載した

 

孫氏は、中国のアリババに投資した2000万ドルが1200億ドルに化けたことで大儲けをし、そのふんだんな資金力を使って、スタートアップ企業のバリュエーションをまともに行わずに何十億ドルもの資金をそれら企業に闇雲につぎ込んできた。

 

例えば、孫氏は、過去にセンスタイム・グループ(SenseTime Group)と呼ばれる中国のAIスタートアップ企業と面会し、同社のプレゼンテーションを受けている。その時、センスタイム社は、孫氏とSoftBankの幹部らに対して、約2億ドル弱の投資の相談を行った。孫氏はセンスタイムがプレゼンテーションを行なっている最中にそれを遮り、いきなりセンスタイム社に10億ドルの投資をしたいと伝え、その数分後には20億ドルの投資を提案している。しかしSoftBankの幹部たちの反対にあい、結局、当初の20億ドルからは半額となる10億ドルを、ビジョンファンドが投資している。しかしそれでも、10億ドルという投資額は、センスタイム社が孫氏との面会で依頼した投資額の5倍近い金額である。

 

民間投資会社Patriarch OrganizationのCEO、エリック・シファー氏は、孫氏がリスクを考えずにスタートアップ企業のバリュエーションを膨らませたとブルームバーグ紙に語っている:

 

「彼らは、より高い投資リターンを獲得するために、投資家への見栄えが良くなるようにバリュエーションを膨らませている。このような資金調達の仕組みは、実質的にユニコーン企業ポルノ(*)」だとシファー氏は語った。

(*)つまり、人(投資家)が見ただけで興奮するようないかがわしいもの。

 

孫氏は、闇雲にスタートアップ企業への投資額を釣り上げることで、ユニコーン企業バブルを膨らませるための投資熱を煽る主要な役割を担った。

 

しかしこの投資熱を煽る仕組み(つまりスタートアップ企業のバリュエーションを高騰させる仕組み)は、WeWorkの企業バリュエーションが今年初めには470億ドルだったのが、現在、たった78億ドルにまで大暴落したことにより世間に広く知られることになった。

 

 

(Source: Bloomberg)

 

孫氏と彼のチームは、WeWorkを破産から救済するための大規模な救済策を立案することで、ビジョンファンドそのものが崩壊してしまうことを避けた。孫氏はまた、ビジョンファンドが、他のユニコーン企業への投資についても意図的に釣り上げるような会計処理を行っていたのではないかという不安が投資家たちの間で広がらないようにするために、投資家たちを迅速に安心させる必要があった。

 

資産運用会社TCWのタッド・リベル氏もまた、もしSoftBankがWeWorkを救済しなければ、ビジョンファンドの有限責任パートナーたちがSoftBankを訴える可能性があり、このSoftBankによるスタートアップ企業のバリュエーション方法(会計処理方法)が法廷で明らかにされてしまうだろう指摘している。SoftBankはそのリスクを避けるために、WeWorkをとりあえず救済し、投資家たちへ投資資金を返金する選択肢を選んだとリベル氏は分析している。

 

「WeWorkは単なる失敗ではない。この(ビジョンファンドによる投資)モデル全体に脆弱性があることを示している。WeWorkの企業バリュエーションがこれほどいい加減なものであったということは、その他の投資ポートフォリオ企業についてはどうなのか?ということになる」とニューヨーク大学のビジネススクールで金融学の教授であるアズワス・ダモダラン氏は語った。

 

SoftBankの監査法人デロイト・トウシュの監査人たちが、ビジョンファンドのユニコーン企業に対する最終的なバリュエーションについての確認を行なっている。これまでのところ、デロイト・トウシュの監査人たちも、そして監査法人ダフ・アンド・フェルプスおよびアーンスト・アンド・ヤングを利用したビジョンファンドの有限責任パートナーらも、ビジョンファンドがその投資先ユニコーン企業のバリュエーションを膨らませるために不正行為があったとは認めていない。

 

ビジョンファンドによる投資は、ユニコーン企業のバリュエーションを釣り上げ、それからIPOという手段を使って公開市場で高値で売り抜けるという方法(いわゆる『ババ抜き』)に依拠している。それがビジョンファンドとSoftBankが投資リターンを得る方法だ。

 

ビジョンファンドを運営しているSoftBankインベストメント・アドバイザーズのCFO、ナブニート・ゴビル氏は、これまでのところ、ビジョンファンドは「7件のIPOをすでに達成し、47億ドルの実現利益と114億ドルの累積投資利益を得ており、有限責任パートナーたちに99億ドルの投資リターンをもたらしている」と語っている。

 

しかしWeWorkが破産寸前まで追い込まれるという大失態により、ビジョンファンドが行ってきた投資案件に対して、厳しい評価の目が向けられている。以下のグラフが示すように、ビジョンファンドが行ってきた投資先ユニコーン企業の多くで、過去数年の間に急激なバリュエーションの高騰が起きている。

 

(Source: Bloomberg)

 

そして大きな疑問となるのは、もし孫氏によるSoftBankとビジョンファンドが、スタートアップ企業の技術やビジネスモデルを十分に審査せず、単に企業評価を釣り上げられるだけ釣り上げ、最後にIPOを行い売り逃げるだけの「投資戦略」だったと、誰もが気がついてしまったらどうなるだろうか?現在、ビジョンファンドが投資を続けている約80社のポートフォリオ企業について、そのバリュエーションが正当に行われていると説得できない限り、WeWorkに起こったようにIPO市場がそれら企業に背を向ける可能性は十分ある。それは、SoftBankとビジョンファンドにとっては、ポートフォリオ企業をエグジットさせることができず、「ババ」のカードを全て自分たちで背負うことを意味する。

 

Screenshot via Vision Fund’s official website

 

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