ニュースレター登録

Loading

オールドメディアが伝えない海外のニュース

なぜ男性のほうが新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいのか?|前立腺ガンの患者や薄毛の男性が特に重症化しやすいという研究結果

なぜ男性のほうが新型コロナに感染すると重症化しやすいのか?|前立腺ガンの患者や薄毛の男性が特に重症化しやすいという研究結果

男性型脱毛症の男性(Photo via Flickr)

 

今年1月、武漢で広がっていた新型コロナウイルス(武漢ウイルス)の感染者について初期の研究論文が発表された。その1つは入院が必要になるほど重症化した感染者の4分の3は男性(成人男性)であると報告している。それ以降、全世界に感染者が広がったが、同様に男性のほうが女性や子供よりも重症化しやすいというデータが報告されている。

 

そして最新の研究により、科学者たちは新型コロナウイルスが特定の人たちの間で重症化しやすい一つの原因を突き止めたと雑誌『サイエンス』が報告している。その原因とはアンドロゲン−−テストステロンといった男性ホルモン−−である。人の細胞の中に新型コロナウイルスが侵入する能力を、アンドロゲンが強化させている様子が観察されている。

 

現段階では仮説であるが、前立腺ガン患者のデータや、アンドロゲンがいかに鍵となる遺伝子を制御しているかを示す実験室での研究などから、この仮説を裏付ける数々のデータが集まっている。例えば、スペインで行われた予備観察から、新型コロナで入院した患者の間では、アンドロゲンと関連がある『男性型脱毛症』の男性が偏って多かったことが報告されている。そこで研究者たちは、アンドロゲンの効果を阻害する効果がある、承認済みの薬を早急に試しており、感染の初期でこれら薬を投薬することで、免疫システムがウイルスを撃退するための時間的猶予を作り出そうとしている。

 

前立腺ガン財団(Prostate Cancer Foundation)のエグゼクティブVPであるハワード・ソウル氏は、「アンドロゲンとCOVID-19(新型コロナウイルス)との間の関連性について、誰もが追求している」と語っている。同氏は、5月13日に600人の科学者や医師たちが参加したZoom会議を主催している。

 

世界中で収集されている疫学データもまた、特に男性が新型コロナウイルスに脆弱であることを示している。例えば、アメリカの医学界で最も権威のある学会誌と言われる『ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JAMA)』の論文によると、イタリアのロンバルディア州では、2月20日〜3月18日の間にICUに収容された1591人の感染者のうち82%が男性だった。また、別のJAMAに掲載された論文によると、ニューヨーク市で新型コロナウイルスに感染した5700人の入院患者の中で、あらゆる成人の年齢層において、男性が女性よりも致死率が高かった。

 

科学者たちは、なぜ男性の間で偏って重症化し致死率も高いのかについて究明しようとしている。その研究を牽引しているのが前立腺ガンの研究者たちとなっている。その理由は、前立腺ガンの研究者たちがアンドロゲンに精通しているからである。

 

カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者クリスティーナ・ジェイミソン氏は、前立腺ガンを研究するためにオルガノイドを開発した人物。彼女が行なっている前立腺ガンの研究を、どのように新型コロナウイルスの研究に応用するかについてブレイン・ストーミングを行うZoom会議に参加中、同じ大学の科学者である彼女の姉妹から”TMPRSS2”という一文字のテキストを受け取ったことを覚えているという。

 

それは4月16日だったという。そのテキストを受け取ってから数分後、ジェイミソン氏はそのテキスト・メッセージを元に、ライプニッツ霊長類研究所(Leibniz Institute for Primate Research)のマーカス・ホフマン氏らが執筆し雑誌『セル(Cell)』に掲載された論文を見つけ出した。この論文は、前立腺を研究している研究者コミュニティーの間に衝撃を走らせた。その理由は、COVID-19感染症を引き起こすウイルスSARS-CoV-2に感染するということが、膜結合酵素であるTMPRSS2に一部依拠していることを示していたためだ。この酵素がコロナウイルスの表面にある「スパイク(突起)」タンパク質と固着するため、このウイルスは宿主の細胞の粘膜に融合することが可能となり、細胞内に侵入することができる。

 

ジェイミソン氏と他の前立腺ガン研究者たちは、この酵素についてよく知っていた。その理由は、前立腺ガン患者の約半数が、TMPRSS2の変異によりガン遺伝子を活性化しているためだ。前立腺の中では、男性ホルモンがアンドロゲン受容体と結合するとTMPRSS2が生成される。ジェイミソン氏は次のように語っている:

 

研究を行うというのは、広大な大海原に錨(いかり)を下ろそうとするようなものだ。(新型コロナウイルスが細胞に侵入するのにTMPRSS2が関わっていることを発見したことは)その錨(いかり)が海底に到達した瞬間のように感じた。

 

アンドロゲンが前立腺の中でTMPRSS2を制御しているように、肺の中でもこの酵素を制御しているかについては、科学者たちはまだ確立できていない。SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の感染は主に肺の中で発生している。ラットおよび人の肺組織と細胞を使った実験では、矛盾した結論が導き出されている。しかし、雑誌『セル(Cell)』にこの論文が掲載されて以降、イタリアの大学Università della Svizzera italianaで分子腫瘍学の責任者であるアンドレア・モリモンティ氏は、イタリア・ベネト州における前立腺ガン患者の男性4万2000人以上のデータを調べ、アンドロゲンと新型コロナウイルスに関係があることを裏付けている。モリモンティ氏と彼の同僚研究者らは、アンドロゲン抑制療法(androgen deprivation therapy:ADT)の治療を受けている患者たちは、その治療を受けていない前立腺ガン患者の男性たちよりも新型コロナウイルスに感染する確率がわずか4分の1 であることを発見している。アンドロゲン抑制療法(ADT)とは、治療薬を使ってテストステロンのレベルを抑制する治療法。データ数は少ないが、アンドロゲン抑制療法(ADT)を受けている男性は、新型コロナウイルスに感染しても入院する確率が低く、また死亡する確率も低かった。

 

さらに小規模ではあるが2件の研究により、新型コロナウイルスで入院した患者たちの間では、人口比よりも偏って多くの男性型脱毛症(MPB)の男性がいることが報告されている。この種の脱毛症(いわゆる薄毛・ハゲ頭)は、高レベルのジヒドロテストステロン(DHT)値と関連している。これは頭皮におけるテストステロンの主要な代謝物。新型コロナウイルスで入院した41人のスペイン人男性を対象に4月に行われた研究では、その71%が男性型脱毛症(MPB)であった。白人男性における男性型脱毛症(MPB)の比率は、一般的に31%〜53%と見積もられている。そして先月発表された2つ目の研究では、マドリード市内にある3ヶ所の病院に入院した男性の新型コロナウイルス患者122人のうち、79%が男性型脱毛症(MPB)であったと報告されている。

 

男性より低レベルであるが、女性にも男性ホルモンのアンドロゲンがある。一方、女性ホルモンのエストロゲンは、急性肺損傷(ALI)を治癒することを助けることが示されている。

 

この雑誌『サイエンス』の記事全文(英語)は、ここで無料で公開されている

 

 

 

 

BonaFidrをフォロー

執筆者

コメントを残す

error: コンテンツは保護されています。