新型コロナウィルスの潜伏期間は最長42日間との報道:米CDCと米国務省の間で感染者の扱い方について意見が真っ向から対立→DPクルーズ船から下船し帰国した米人18名が陽性反応
横浜港に着岸したクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号は、日本政府により14日間の隔離政策が行われていた。しかしその隔離期限が来る前に、アメリカ政府は日本政府が定めた隔離期限を破り、自国民をチャーター機で救出する決断を行なった。それはこのクルーズ船内が、中国国外としては当時、唯一かつ最大の感染発生源になってしまっていたためである。
そのようなクルーズ船に隔離されホームシック状態だったアメリカ人328名が手術用マスクをつけた状態で、十数台のバスに乗り羽田空港まで輸送される様子が全米で放映された。しかしこの時、自国民の救出を行なっていたアメリカ政府職員たちは、大きな問題に直面していた。羽田空港の駐機場に駐車したバスの中でアメリカへ戻るチャーター機への搭乗を待っているアメリカ人のうち14人に対して、新型コロナウィルスの検査で陽性反応が出たことが明らかとなった。米国務省(日本の外務省に相当)は、感染者はアメリカ人であろうともチャーター機には乗せないと公約していた。
アメリカ政府職員たちは決断を迫られた。彼ら全員を帰国便に乗せるべきか?それとも感染が判明した14人を日本に残し、日本の医療施設で隔離・治療させるべきか?このとき、米国ではまだ日曜午後であった。ワシントンDCのアメリカ政府内で非常に激しい議論が行われていたと、ワシントン・ポスト紙が今週詳細を報じている。
米国務省とトランプ政権の衛生担当者は、感染が判明した彼らをチャーター便に乗せようとした。感染が判明したといっても、彼らには症状がなく、飛行機内部でプラスチックにより密閉された空間に隔離することができると考えていた。しかし、米疾病管理センター(CDC)の職員たちはその意見に反対した。そうした防護策があったとしても、彼らが他の乗客にウィルスを感染させてしまう可能性が否定できなかったためだ。CDCの職員たちは、この14人の感染者を他の感染していない乗客と一緒にチャーター便に乗せるべきではないと確信していた。
この意思決定に関わった米国政府高官は、匿名を条件にこの時の様子について語り、「あれは最悪の悪夢のようだった。正直に言って、代替案というのが、大雨が降る中、高齢の女性を(外に)引きずり出すというような、これまた最悪の状況だった」と表現している。
結局、この議論には国務省が勝った。しかしこの判断に激怒したCDCの職員たちは、感染したアメリカ人旅行者もチャーター便に乗せて救出するという政府発表から、CDCの名前を削除するよう要求した。つまり、この最終判断に対してCDCはお墨付きを与えることはできないという最後の抵抗を行なった。この14名の感染者をアメリカに連れ帰ったことにより、アメリカ国内で感染が確認され隔離されている人数は約2倍に膨れ上がっている。
振り返ってみると、CDC職員の判断は正しかったということになるのかもしれない。感染者と非感染者を同じ飛行機に長時間乗せて米国に連れ帰るという判断は、重大な間違いだったということになる可能性がある。
その理由にはいくつかある。現在、新型コロナウィルス(武漢コロナウィルス)の潜伏期間は、当初考えられていた14日間ではなく最長42日間であると報じられている。またこの新型コロナウィルスは一度の検査では多数の検出漏れ(偽陰性)が発生することも医療関係者が指摘しており、潜伏期間が1ヶ月以上あると言われる中、感染者が検査をくぐりぬけ国内に侵入する可能性がさらに一層高まる。また、これだけでなく、「完治」した患者でも再感染してしまったケースが複数あると中国国内で報じられている。先日も、四川省成都で、新型コロナウィルスへの感染から完治していたとされる男性が、退院した10日後に再び感染したとTaiwan Newsが報じている。
そして今週金曜、米CDCは記者発表を行い、その中でアメリカの一般国民に向けてショッキングな発表を行なった。全米50州のうちカリフォルニア州、ネバダ州、イリノイ州の3州を除いた残る47州において、新型コロナウィルスの検査キットが不足しているため、CDCに対してウィルス検査の依頼が「殺到」しているという。
この記者発表の中で、CDCは、このウィルスを「多大な公衆衛生上の脅威(”tremendous public health threat”)」と表現し、ヒトからヒトへの感染が「非常に起きる可能性があり、おそらく起きる(”very possible, even likely”)」と警告している。
このCDCによる記者発表は、冒頭で紹介した国務省職員とCDC職員の間の意見の対立を報じたワシントンポスト紙の記事が掲載された夜の翌日に行われた。
If this hits NY or Chicago…. schools close overnight and everything shuts down.
Fed will be powerless.. just like 08… didnt matter if they were cutting rates… nobodoy was going to buy an overpriced house.
— AGTrader (@ag_trader) February 21, 2020
【訳】もしこれ(新型コロナウィルス)がニューヨークやシカゴを襲ったら・・・学校は一晩のうちに閉鎖され全てが閉鎖される。
連邦政府は制御能力を失うだろう・・・まるで2008年のときのように・・・彼らが政策金利を引き下げたことなど関係ない・・・誰も高騰した住宅など買わなくなった。
そしてCDC職員が確信していた懸念は早速現実のものとなっている。米国時間の金曜、ダイヤモンド・プリンセス号から救出されアメリカに到着した人のうち13名はネブラスカ大学のメディカルセンターに搬送されたが、そこで再検査を行なったところ、この13名のうちの11名が陽性(*)という結果になった。
この13名は、日本を出国する時点では陰性という検査結果だった。そのうちの11名について、米国で陽性判定が出ている。このことは、彼らが日本を出国する直前に感染してしまったということの他に、チャーター機の中で感染してしまった可能性もあることを示している。そして日本で陰性判定を受けて米国に戻ってきた314名のうち11名に陽性反応が出たということは、残る301名の中にもかなりの感染者が潜んでいると疑わざるを得ない状況となっている。まさにCDC職員が懸念したことが現実になりつつある。
(*執筆時にこのニュースは更新され、アメリカに戻ってきたダイヤモンド・プリンセスの乗客のうち18名に陽性反応が出たとUSA Todayが報じている。)
ネブラスカ大学メディカルセンターの代表者、テイラー・ウィルソン氏は、この感染者11名のうち10名は現在、同大学の国立隔離ユニット(National Quarantine Unit)で隔離されており、他の3名は生物学的封じ込めユニット(biocontainment unit)で隔離されているとUSA Todayが報じている。(さらに追加で陽性であることが判明した7名について、そのうち5名はテキサス州で隔離され、残る2人はカリフォルニア州で隔離されているとCDCは金曜に発表している。)
国立隔離ユニット(National Quarantine Unit)のディレクターであるマイク・ワドマン博士は、ネブラスカ大学メディカルセンターで隔離されている13名の検査結果が出る前、彼らは最低2週間ネブラスカ州オマハで隔離されると今週初めに発表していた。しかしこの時点で、13名中1人の男性については、咳、熱、息切れといった深刻な症状が出ていたため、同大学病院の生物学的封じ込めユニット(biocontainment unit)に転院させられていた。
一方、ハワイに旅行に行っていた日本人男性が、帰国後、新型コロナウィルスに感染していたことが判明したにもかかわらず、ハワイ州では1人も感染者が報告されていない。その理由は、ハワイ州には新型コロナウィルスの感染キットがないため、検査そのものが行われていないためだとStar Advertiserの記者たちが調査報道を行いつきとめている。
アメリカ国内でも新型コロナウィルスの「水際作戦」がそろそろ終わりをむかえ、市中感染が報告され始めるのは時間の問題となっている。
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