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「誰も何もわかっていない」:金融のプロも匙を投げるほど経済見通しは立たず

「誰も何もわかっていない」:金融のプロも匙を投げるほど経済見通しは立たず

Photo via Pixabay

全米人口の8割がなんらかの封鎖対象になっている中、今週木曜、労働省は先週分の新規失業保険申請件数を発表した。結果は2週間連続の急増であり、先週から倍増の665万件に上った。これにより過去2週間に申請された失業保険は合計1000万件近くに達する。

一方、これほどマイナス要因の経済データが発表されたにもかかわらず、木曜の米国株式市場は上昇して取引されている(原稿執筆時)。その理由は、トランプ大統領がサウジアラビアのサルマン皇太子と会談を行い、約1000万バレルの原油の減産を行うだろうという希望的観測をツイートしたことで原油価格が35%以上の上昇に転じたためだ。

【訳】たった今、私の友人であるサウジアラビアのサルマン皇太子と会談を行った。皇太子はロシアのプーチン大統領と会談していた。彼らは約1000万バレルの減産を行うだろうと私は期待&希望している。また、それよりもずっと大量の減産を行うこともありえる。それが実現すれば、原油と天然ガス業界にとっては素晴らしいことになる。

トランプ大統領はさらに畳み掛けるように次のツイートを投稿している:

【訳】・・・1500万バレルの減産もありえる。全員にとって良い(素晴らしい)ニュースである。

しかしロシア政府のドミトリー・ペスコフ広報官は、プーチン大統領はサルマン皇太子とは会談を行なっておらず、原油価格を上げるための減産には応じていないという声明を発表した

また、サウジアラビア政府が報道機関を通じて発表した声明でも、トランプ大統領がツイートした1500万バレルの減産には言及しておらず、皇太子がただ単にOPEC+の加盟国に「フェアな合意を模索するために」会合を行うことを要求するというだけの内容にとどまっている。

こうした報道を受けて、原油価格はプラス約21%(執筆時)にまで下落している。

そして早速、トランプ大統領とロシアとの板挟みにあっているサルマン皇太子は、900万バレルの減産を検討しているとダウ・ジョーンズが速報を報じた。ただしこれはその他のOPEC+の加盟国がサウジアラビアに追随する場合であるという条件付きとなっている。

しかしたとえOPEC+がこれらの減産を実施しても焼け石に水である。なぜなら、武漢ウイルスにより世界経済が停滞している影響で、原油需要は1500万バレル以上減少しているためである。世界の需要減とのバランスを取るためには、ロシアとサウジアラビアの両方が原油の生産を止める必要がある。

* * *

このように、政治家の一言で原油価格が35%も上昇したかと思えば、その1時間後には10%以上も急落したり、1000万件の失業保険の申請件数があったというニュースにもかかわらず株式市場が2%も上昇したりと、市場には激しいボラティリティが席巻している。

激しい価格の乱高下が一向におさまらないということは、その裏を返せば「誰も経済の見通しが立てられない」、つまり世界経済がおかれた状況について「誰も何もわかっていない」ということを意味する。

3月31日、少なくとも二人の金融のプロが、それぞれ同じことを指摘している。一人はUBS銀行の主幹エコノミストであるポール・ドノバン氏。そしてもう一人は本サイトで何度も紹介しているNorthmanTraderの設立者でマーケット・ストラテジストのスベン・ヘンリック氏である。

UBS銀行のポール・ドノバン氏は、『何が起きているかわかっている人はいるのだろうか?(Does Anyone Know What Is Happening?)』というタイトルの報告書(PDFはここからダウンロード可能)を発表した。その中でドノバン氏は次のように記している:

経済データは、コロナウイルスによる封鎖が行われている結果、ますます信頼できないものになってきている。世界経済は悪化するだろうということは皆わかっている。それがどれほど悪くなるか、高い精度をもって我々は知ることができない。

特に現在の状況下では「年率換算」することは全く意味がなく、年率換算による予測は止めるべきだと記している。

一方、ヘンリック氏は、『誰も何もわかっていない(Nobody Knows Anything)』という投稿を行っており、「いろいろなものを読み、(市場を)観察すればするほど、明らかになることがある。それは誰も何もわかっていないということだ」と記している。

様々な金融機関のエコノミストやアナリスト、ヘッジファンド、有名投資家たちが経済予測を行っているが、「我々は一度立ち止まり、大きな将来予測をすることをやめてみる必要があるという考えに私は至っている」と記している。

その一つの理由は、今年第2四半期の米国のGDP予想が、各金融機関によりバラバラであることを挙げている。ヘンリック氏は次のように述べ、各金融機関が行っている米国の第2四半期のGDP予想値のリストを掲載している。

マクロ経済についての予想?冗談はよしてくれ。誰も何もわかっていない。誰もがただ当てずっぽに予想しているだけだ。

マイナス9%というGDP成長率予想は、マイナス40%という予想とは全く異なる。このように極端に大きな幅のあるGDP成長率予想では、企業のバリュエーション、キャッシュフロー、売り上げ、収益など正しく見積もることはできない。

「誰も何もわかっていない」とヘンリック氏は繰り返す。

https://twitter.com/NorthmanTrader/status/1244627927246999556

【訳】原油は20ドル以下を記録した。

10年物は0.4%以下、S&P 500は2200以下、VIX(恐怖指数)は86以上をつけた。

・・・ウォール街にいる誰もこれを予想していなかった。これに近い数字すら予想していなかった。

つまり、(現在の)予想値についてはどれも大量の眉唾をつけて見ることだ。

自分の頭で考えることを決して止めてはいけない。

さらに連銀が実施している無期限の市場介入(4兆〜5兆ドル規模)や、おそらく4兆ドル規模になるであろう経済刺激策(6兆ドル10兆ドルという意見もある)がもたらす長期的な影響についても、ヘンリック氏は懸念している。

(その影響は)誰にもわからない。MMT(現代貨幣理論)の信望者たちは、借金など問題ないため、問題にはならないというだろう。

しかしヘンリック氏はこの意見に次のコラージュ写真で反対意見を表明している:

https://twitter.com/NorthmanTrader/status/1245047444058058758

【訳】このクライシスが終わる頃までに起きること。(財務省のムニューシン長官とその妻が、ジンバブウェの紙幣を持っている写真。)

そしてヘンリック氏を最も腹立たしい気持ちにさせたのは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が掲載したジャネット・イエレン元連銀議長の欺瞞に満ちたコメントだという。

https://twitter.com/NorthmanTrader/status/1244968408107679744

【訳】金融緩和政策を行ったジャネット・イエレンが、今は金融緩和政策のせいで企業の借金が過剰に積み上がっていることを批判している。

彼女のような中央銀行関係者たちは、なぜ自分たちが行った金融政策の責任を決して取らないのか?

+++

「我々は過去11年間、金利を排水溝に捨てるように引き下げてきた。そして現在、我々は過剰に企業負債があることを批判している。」連銀の天才たち。

しかしジェローム・パウウェル議長率いる連銀は、今起きている金融危機を、さらに借金を増やすことで解決しようとしている。今回も同じ金融政策で危機を乗り切れるのか?

あまりに多くのことが分からず、あまりに多くの不確実性に満ち溢れ、あまりに多くの予想が行われている。

https://twitter.com/NorthmanTrader/status/1245019553500991489

【訳】半数が力強く素早い経済回復を予想し、残る半数が暗い予想をしている場合、これが意味することは、我々は激しい上下の値動き、不確実性、幅広い価格の変動幅という期間がさらに伸びるということである。

ヘンリック氏は次の言葉で締めくくっている。

予測値は大量の眉唾をつけて見るようにしよう。誰も何もわかっていないのだから。

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