米金融市場では短期資金の流動性危機が再浮上:FRB介入もキャッシュ不足が一向に解消しない
月末が近づくにつれ、アメリカの金融市場ではキャッシュ需要が急速に高まっている。先週は短期資金を調達するレポ取引市場の利率(repo rates)が4倍へと急上昇し金融市場をパニックが襲った。そして先週金曜、ニューヨーク連銀は10月10日まで毎日、最大900億ドル規模の資金投入を市場に投入することを発表している。
しかし、今日(9月25日)、ニューヨーク連銀に短期資金の申し込みが行われた総額は920億ドルであった。ニューヨーク連銀が市場に緊急的に投入できる短期資金の上限は750億ドル。つまり、今日、アメリカの金融市場で銀行およびヘッジファンドが必要とする短期資金は、170億ドルが不足していることになる。
情報源:ニューヨーク連銀
このキャッシュ不足を受け、ニューヨーク連銀は、1日に投入できる短期資金量の上限を、現在の750億ドルから1000億ドルに増額する発表を行なった。ただし、この上限の拡大が、今週木曜以降も続けられるかは不明である。
今年5月、ニューヨーク連銀総裁は、ニューヨーク連銀のマーケット・デスク責任者であったサイモン・ポッター氏(冒頭の写真)を解任したことはここでも報じたが、そのポッター氏がブルームバーグの取材に対して次のコメントを行なっている:
今月末、そして今年の年末に向けて流動性を安定させるために、中央銀行は米国債を(オープン市場で)直接購入することで保有するバランスシートを増やさなければいけない可能性がある。
このポッター氏は、2012年から今年5月まで、21年間にわたってニューヨーク連銀のマーケット・デスクの責任者を務めた人物。アメリカの金融システムやそれを安定化させるための日々の業務に最も詳しい人物と言っていいだろう。ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁が、彼を突然解任した理由については報じられていないが、たたき上げのエコノミストであるウィリアムズ総裁は、アメリカの金融システムについて日々の業務には疎い人物だというのが市場の認識だ。ブルームバーグ紙ですら、次のように報じている:
ポッター氏が連銀を去るということは(中略)、ウィリアムズ総裁に対する懸念を高める。なぜなら、同総裁には、金融市場に関する経験が比較的不足しているからだ。ウィリアムズ氏は財政専門のエコノミストとして広くリスペクトされてはいる。
1ヶ月前までは、連邦準備制度理事会(Fed)が再び量的緩和(QE)を行うとはほとんど予想されていなかった。しかし今では、Fedは量的緩和を再開しなければいけない必要性に迫られているというのが多くの市場参加者の見方だ。ブルームバーグ紙も、先週のレポ取引に起きた混乱により、「Fedが金融システムからキャッシュを引き上げすぎたのではないかという疑問が生じる。そして、成長する経済に伴う需要についていくために、中央銀行はいつになったらバランスシートの拡大を再開する必要があるだろうかということに注意を向けることとなった」と報じている。
一方、ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁がフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで語っているように、「アメリカの金融システムに亀裂があることが判明した先週の事態をフォローアップしており、なぜ余剰の資金を保有している銀行が、翌日返済資金市場に資金を貸し付けることを怠ったのか」ニューヨーク連銀は調査している。
しかし、ニューヨーク連銀の調査が完了しても、さらなるリスク問題がある。それは、大量の流動資金を持っているのに貸さなかった銀行はどこかと対になる疑問、つまり、短期資金が枯渇しかかっている銀行やヘッジファンドはどこかということである。
ニューヨーク連銀が緊急措置として提供する翌日返済資金に申し込みを行なっている銀行やヘッジファンドがどこであるのか判明すれば、それら金融機関の信用性に多大なリスクとなる。これは、リーマン・ショックが起きた際に「ディスカウント・ウィンドウ」を利用した金融機関が被った信用リスクと同じである。しかし、その信用リスクを冒してでも、ニューヨーク連銀から2週連続で短期資金を借入申込している金融機関はどこか?
ニューヨーク連銀が発表するよりも先に、金融ジャーナリストたちがこれら金融機関名を突き止め報じるかもしれない。そうなれば、金融市場に信用不安が蔓延するという金融危機の再来だ。
【9月27日更新情報】
ニューヨーク連銀は、3回目のターム・レポ取引市場に投入する緊急資金への申し込みが490億ドルであったと発表した(ターム・レポはオーバーナイト・レポとは異なる)。これは限度額より110億ドル低い金額であり、今四半期末へ向けて市場における短期の資金不足の不安が解消されたことを意味する。
しかし、先週、アメリカの金融市場において短期の資金流動性が突然ショートしそうになった原因は不明のままである。この根本原因は、今でも市場につきまとう亡霊のように存在している。
Screenshot from NY-FRB
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