VIX恐怖指数は役に立たない?:新たな指標「経済政策不確実性インデックス」の方が現実を反映
これまで市場に広がるリスク感情を数値化したものとして、VIX恐怖指数などが伝統的に利用されてきた。現在、VIX指数は14あたりと過去2年間で最も低いレベルで推移している。長期的なスパンで見た平均値が20であることを考えても、現在のVIX指数の値が非常に低いことがわかる。つまり、VIX恐怖指数だけを見ると、ウォール街は何も市場について心配していない、安心し切った心理状態であることになる。
VIX恐怖指数
しかし実際に市場に広がる感情はそこまで楽観的なのだろうか?米中貿易戦争が長引き、経済が減速化しており、新たに連銀は量的緩和(まがい)の財政政策を開始し、レポ取引市場は不安定化している。さらに企業の収益は低下し、逆に賃金の上昇が起き、企業の収益マージンを圧迫している。そして世界で最も力のある権力者であるアメリカ大統領が弾劾の危機にさらされている。その他、ブレグジット、トルコ、シリア、香港など世界には不安材料が溢れている。
VIX恐怖指数は、これらの不安材料を一見、無視しているように見える低水準である。アメリカの株価が史上最高値から2%ほどしか下回っていない高値であることからVIX指数が低いのか、それともVIX指数が低いから株価が高止まっているのか、原因と結果がどちらなのか判然としない。
一方、本日、急上昇した指数がある。それは、「経済政策不確実性インデックス(economic policy uncertainty index)」だ。この指数は米国だけでなく、日本、イギリス、中国、インドなど各国の不確実性指数を発表している。そして本日、米国の経済政策不確実性指数が急上昇し、過去最高を記録した。
以下のグラフは「月別」データに基づいているが、「日別」の指数も発表されており、本日発表された最新の米国経済政策不確実性指数が過去最高を記録している。
月別による米国の経済政策不確実性指数
この経済政策不確実性指数は、正式には「ベイカー、ブルーム、およびデービスによる毎日のニュースに基づいた経済政策不確実性指標(The Baker, Bloom, Davis daily news-based Economic Policy Uncertainty Index)」と呼ばれている。Access World Newsが提供するNewsBankサービスからの新聞アーカイブを元に算出されている:
この指標は、3つあるカテゴリーから最低1つの単語を含んだ記事の件数をベースに算出されている。
1.1つ目は、経済的な(economic)もしくは経済(economy)
2.2つ目は、不確実な(uncertain)もしくは不確実性(uncertainty)
3.3つ目は、法案(legislation)、損失・赤字(deficit)、規制(regulation)、連邦議会(congress)、連銀(federal reserve)、もしくは(ホワイトハウスwhite house)
Access World Newsが提供するNewsBankデータベースには、世界中から数千社もの新聞やその他のニュース・ソースが含まれている。NewsBankは、新聞から雑誌、ニュースワイヤ・サービスまで幅広いニュース・ソースを持っているが、分析は米国の新聞ソースのみを利用して行なっている。これら新聞には、USA Todayのような大手全国紙から、全米に存在する小規模の地方新聞まで幅広い。
米国に関する経済政策不確実性指数が、今日、過去最高へと跳ね上がったわけだが、ソ連が崩壊した時よりも、9/11同時多発テロが起きた時よりも、リーマンショックによる金融危機が発生した時よりも、そしてブレグジットの賛否を問う国民投票が行われた時よりも高い数値となっている。
この経済政策不確実性指数を、ビジネスに対する不確実性と置き換え、そして株式市場におけるリスクと考えた場合、VIX指数は現在の数値より50ポイント以上高くなくてはいけない計算になる。つまり本来のVIX指数は14ではなく64以上であるべきということになる。
ただし、この経済政策不確実性指数というのは、メディア分析を元にしているため、現実の不確実性というよりも、メディアが煽っている不確実性を示した指標と言えなくもない。しかし、シラー教授が指摘しているように「予言の自己実現」は存在し、メディアが煽るから不況が起きるという因果関係が成り立つとすれば、これは憂慮すべき数字だ。
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