「株式市場は30〜40%下落し、トランプは落選する」とNYUビジネス・スクールのノリエル・ルービニ教授が予見
NYUのビジネス・スクールで教鞭をとるノリエル・ルービニ教授は、「民主党の基盤は貧弱だが、トランプは死に体だ。それを確信している」とドイツのデア・シュピーゲル誌とのインタビューで語った。
新型コロナウィルスがますます世界で感染拡大する中、それは(すでに始まっている)金融危機に発展し、そして政界に重大な転換点をもたらすだろうとルービニ教授は予言している。
ルービニ教授は米国で起きたサブプライム住宅ローン危機と、それを引き金にして起きた2008年の金融危機を正確に予言していた。また、超過債務をかかえたギリシャで緊縮財政政策が導入されることや、それに伴う経済的影響についても正確に予言していたことで知られている。ルービニ教授は、新型コロナウィルスは世界的な経済破綻へと発展し、その結果トランプ大統領は再選されないだろうと確信しているという。
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デア・シュピーゲル誌:新型コロナウィルスの発生は中国そして世界経済にとってどれほど深刻でしょうか?
ルービニ教授:4つの理由により、この危機は投資家が予想しているよりも、中国そしてそれ以外の世界各国にとってずっと深刻だ。第1に、感染病の流行は中国にだけ限られたことではなく、世界的なパンデミックだ。第2に、収束までには程遠い。これは多大な影響があるが、政治家たちはそのことに気がついていない。
デア・シュピーゲル誌:それはどういう意味でしょうか?
ルービニ教授:あなた方の大陸を見てみるといい。欧州は国境を閉鎖することを恐れている。これは大きな失敗だ。2016年、難民問題に対応するため、シェンゲン協定は実質的に一時停止された。しかし今回はそれよりもずっと悪い状況だ。イタリアとの国境はなるべく早く閉鎖されるべきだ。100万人の難民がヨーロッパにやってくるよりも、今の状況はずっと悪い状況だ。
デア・シュピーゲル誌:他の2つの理由は何でしょうか?
ルービニ教授:誰もが今回の不況はV字回復するだろうと信じている。しかし人々は自分たちが何について語っているのか理解していない。彼らは奇跡を信じる傾向にある。これは単純な計算だ。第1四半期、中国経済は2%縮小したとする。そうすると、今回のウィルスが発生する前に誰もが期待していた年率6%の成長を達成するためには、残る3四半期で8%の成長を達成する必要がある。もし第2四半期以降の成長率が(より現実的なシナリオである)6%しかなかった場合、中国経済は1年間全体を通して2.5%〜4%しか成長しないことになる。こうした成長率は中国が不況にあることを基本的には意味し、世界に衝撃をもたらすことになる。
デア・シュピーゲル誌:そして第4の理由は?
ルービニ教授:誰もが政治家たちは迅速に対応すると考えているが、しかしこれもまた間違いである。市場は完全に妄想に取り憑かれている。財政政策を見てみるといい。財政政策は、ドイツなどの限られた数カ国でしか行えない。なぜならイタリアなど他の国々ではその余裕がないからである。たとえ何らかの政策的対応を行ったとしても、政治プロセスは多大な議論と交渉を必要とする。それには6ヶ月〜9ヶ月を要する。これは長すぎだ。真実はこうだ。たとえ新型コロナウィルスの危機が発生していなかったとしても、欧州には財政刺激策が必要だった。イタリアは不況の間際まできており、ドイツも同じだった。しかしドイツの政治家たちは、自国がチャイナ・リスクにこれほどさらされているというのに刺激策について考えてすらいない。政治家たちによる反応は冗談と言えるほどだ。政治家たちは、往々にして後手に回る。この難局はいずれ飛び火し、大惨事をもたらす結果となるだろう。
デア・シュピーゲル誌:中央銀行はどのような役割を果たさなければならないでしょうか?
ルービニ教授:欧州中央銀行(ECB)と日銀は、すでにマイナス金利領域に入っている。当然、借り入れを刺激するために、預金金利をさらに引き下げることは可能だ。しかし、それでは市場を1週間以上助けることにはならないだろう。この難局は、財政政策や金融政策で対抗することができない供給ショック(*)だ。
(*)景気後退もたらす「供給ショック」
米中の貿易摩擦や技術をめぐる覇権争いが、輸入品や中間財、エネルギーの価格を引き上げている。こうした供給サイドの問題が企業活動のコスト上昇を招き、景気後退を引き起こすショックになると筆者は予想する。消費の落ち込み等の需要ショックには有効だった金融・財政政策が効かない可能性が高く、別の対策が求められる。
ノリエリ・ルービニ氏ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授兼、経済分析を手がけるRGEモニターの会長。米住宅バブル崩壊や金融危機到来を数年前から予測したことで知られる。−日経ビジネス
デア・シュピーゲル誌:何が助けになるでしょうか?
ルービニ教授:解決策は、医療的なものである必要がある。食べ物や飲料水の確保ができないときに、財政政策や金融政策では助けにならない。このショックが世界的不況に発展する場合、金融危機が発生する。なぜなら、負債レベルはすでに膨れ上がっており、米国の住宅市場にはちょうど2007年の時のようにバブルが発生しているからである。これまで私たちは成長を続けていたため、時限爆弾にはならなかった。しかしそうした状況は終わった。
デア・シュピーゲル誌:今回の難局で、中国人は自国の政府に対する考え方を変えるでしょうか?
ルービニ教授:ビジネス界の人々は、中国での状況は中国政府が公式発表するよりもずっと悪い状況だと私に語っている。上海にいる私の友人は、自宅に何週間も隔離された状態だ。革命が起きるとは思わないが、中国政府はスケープゴート(罪を負わせる身代わり)を必要とするだろう。
デア・シュピーゲル誌:たとえばどのような?
ルービニ教授:豚インフルエンザ、鳥インフルエンザ、そして香港での民主化運動については、外国による介入があったとする陰謀論がすでに出回っていた。中国政府は台湾、香港、もしくはベトナムにちょっかいを出し始めると私は想定している。中国政府は香港のデモ参加者たちを厳重に取り締まるだろう。もしくは、米軍を挑発するために台湾の空域に戦闘機を送り込むだろう。フォルモサ海峡(台湾海峡)で1回の事故さえ起きれば、軍事活動に発展するだろう。米中間の熱い戦争(武力戦争)ではなく、それ以外の何らかの活動だ。これこそが、国務省のマイク・ポンペオ長官やマイク・ペンス副大統領など米国政府における人々が望んでいることだ。これがワシントンDCの多くの政府関係者の物の考え方だ。
デア・シュピーゲル誌:この難局は、明らかにグローバリゼーションにとって後退です。自国の企業に海外での生産を止めさせたいと考えているトランプのような政治家にとって、これは有利なことだと思いますか?
ルービニ教授:彼はこの難局から恩恵を得ようとするだろう。それは確かだ。しかし新型コロナウィルスが米国に到達した時、全ての状況は一変するだろう。空に壁を作ることはできない。私はニューヨーク市に住んでいるが、人々はほとんどレストランにも、映画にも、劇場にも行かなくなっている。これまでほとんど誰もウィルスに感染していないにもかかわらずだ。もしウィルスが本当にやってきた時、私たちは完全にお手上げ状態になる。
デア・シュピーゲル誌:トランプにとって完璧な恐怖シナリオ?
ルービニ教授:全くそうではない。彼は選挙に負けるだろう。それは確実だ。
デア・シュピーゲル誌:大胆な予言ですが、教授がそこまで確信を持つ理由は?
ルービニ教授:その理由は、米国とイランとの戦争という重大なリスクがあるからだ。米国政府は政権交代(レジーム・チェンジ)を望んでおり、(そのために)イラン人に対して大量の爆弾を投下するだろう。しかしイラン人は苦難に慣れている。私はイラン系ユダヤ人だ。だから彼らのことをよく知っている!そしてイラン人もまた、米国での政権交代を望んでいる。(二国間の)緊張状態は原油価格を押し上げ、そして必然的に選挙でトランプの敗北へとつながるだろう。
デア・シュピーゲル誌:教授がそこまで確信を持つ理由は何でしょうか?
ルービニ教授:これは歴史の常だからだ。1973年のオイルショックの後、フォードはカーターに負けた。1979年の第2次オイルショックのためにカーターはレーガンに負けた。そしてクウェート侵攻の後、(父親)ブッシュはクリントンに負けた。民主党の基盤は貧弱だが、しかしトランプは死に体だ。それを確信している!
デア・シュピーゲル誌:イランに対する戦争が、トランプに勝つためには必要ということでしょうか?
ルービニ教授:全くその通りだ。その価値がある。さらに4年、トランプ政権が続くということは経済戦争が続くということだ!
デア・シュピーゲル誌:その影響に対して準備するために、投資家たちは何を行うべきでしょうか?
ルービニ教授:世界の株価は、今年30〜40%下落すると私は予想している。私のアドバイスはこうだ。資産を現金そしてドイツ国債のような安全な国債として保有しなさい。これら国債はマイナス金利だが、だからどうしたというのだ?それは価格が上昇を続けるということを意味しているにすぎず、そこに投資すれば多額の利益を得られる。もし私の予想が誤りで、代わりに株価が10%上昇すれば、それでもOKだ。現金に対して資産をヘッジする必要がある。これがより重要だ。私のモットーはこうだ:「Better safe than sorry(後悔するよりも安全を取ったほうがいい=備えあれば憂いなし)」。
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