米住宅ローン融資会社に巨額のマージン・コールが発生し存続の危機に直面:原因は政府による大量の資産買い入れ政策であるという皮肉
政府がその巨大な権力を使って自由経済を操作しようとすれば、それは必ず市場に歪みを生む−−ここでも紹介した通り、先週ジム・ビアンコ氏が「連銀による『治療』は病気そのものよりも事態を悪化させるリスクがある」と指摘していたが、連銀(FRB)が無期限の量的緩和政策と資産の買い入れ政策を開始したとで、さっそくその歪みが発生している。
先週から、アメリカの住宅ローン融資会社には巨額のマージン・コール(追証)が発生し、存続そのものが危ぶまれる事態となっている。まず、先週金曜、AG Mortgage Investment Trust社が追証に失敗したと発表し、さらに将来の追証にも応えることができない見込みであると発表した。次にTPG RE Finance Trust社の手元資金が枯渇し、貸し手に返済できなくなった。そして月曜、Invesco社が、次いでED&F Man Capital社、そして今度はモーゲージREITが連鎖して突然クラッシュするというモーゲージ業界の大混乱が起きたことでMFA Financial社に巨額の追証が発生した。MFA Financial社が以下の発表を行うと、同社の株価は大暴落したため一時取引停止となった:
COVID-19ウイルスによる世界パンデミックによる結果、金融市場に混乱が引き起こされているため、当社およびその子会社は、金融取引相手から異常な数の追証を受けている。さらに、当社のレポ取引における資金調達コストが急騰するという事態にも直面している。
そして当然、これら米住宅ローン融資会社は、政府による救済を要求している。アメリカの自由資本主義は、最終的に政府救済(大きな政府)に帰結するという皮肉の事態が日常化してしまった。
さらに皮肉なのは、住宅ローンを融資する銀行(モーゲージ・バンカー)たちは、連銀に対してモーゲージ担保証券(MBS)の資産買い入れを停止するよう要求していることだ。ブルームバーグが報じた内容によると、先週から連銀が行なっている、住宅ローンに紐づけられた債券1830億ドル分を買い入れるという未曾有の金融政策が、意図せずしてこれら銀行業界をリスクにさらしていると彼らは警鐘を鳴らしている。その理由は、住宅ローンの貸し手たちはローンを融資することにより自ら損失するリスクをヘッジする契約を同時に行なっており、連銀によるモーゲージ担保証券(MBS)の大量買い入れが、このヘッジ契約に関する大量の追証を発動させてしまったためだ。
先週末の日曜、米抵当銀行協会(Mortgage Bankers Association:MBA)は、米証券取引委員会(SEC)とブローカレージ業務に関する規制当局に対して、証券会社に市場を不安定化させるようなレベルにまで追証を加速させないよう勧告することで、この問題に対処するよう要望する書簡を発表した。
米抵当銀行協会のCEO、ロバート・ブロクスミット氏が署名したこの書簡には、住宅ローンの貸し手が新たなローンを発行する際、彼らはそれと同時にそのローンと紐づいたモーゲージ担保証券(MBS)に対して空売りを行う契約も結んでいると記している。こうした契約が行われている理由は、銀行が、連邦住宅抵当貸付公社であるファニー・メイやフレディ・マックに住宅ローンを販売できるよりも前に、その住宅ローンの価値が下落してしまう可能性があるためである。モーゲージ担保証券(MBS)の空売りを行うことで、住宅ローンの貸し手は、住宅ローンの価値が下がってしまった場合のリスク・ヘッジを行うことができるとブロクスミット氏はその書簡の中で記している。
先週、エージェンシー・モーゲージ担保証券(MBS)に対する市場の価格ボラティリティが劇的に高まっていることにより、住宅ローン融資会社のヘッジ・ポジションに対してブローカーディーラーから追証が発動される事態となった。多くの住宅ローン融資会社にとって、それは持続不可能な事態となっている。
住宅ローン融資会社は、自らのヘッジ・ポジションに身を滅ぼしかねない窮地に追い込まれる中、彼らはブローカーたちから、担保に入れた資産を強制的に清算するか、さらなる資金を入金するよう要求されている。
ブロクスミット氏はさらに書簡の中で次のように記している:
住宅ローン会社に対してブローカーディーラーらが発動した追証は、先週末までにこれまでに経験したことがないレベルにまで急増している。
責任感を持って経営されている住宅ローン会社の多くが、これら追証に対応する能力がないということは、連銀によるMBS資産の買い入れ政策の本来の目的、つまりはプライマリー・モーゲージ市場とセカンダリー・モーゲージ市場が円滑に機能するようにという目的を損なうことになる。
住宅ローン会社の中にはこの先1日か2日で追証に失敗する企業が出てくる可能性があるとこの書簡は記している。この業界でトップのアドバイザリー・サービスを提供すると言われるMBS Highwayの設立者、バリー・ハビブ氏は、先週からこの問題について広く警鐘を鳴らしてきた最初の人物である。バビブ氏は次のように語っている:
これは現在の制度の崩壊だ・・・一定期間、連銀が買い入れを止めればいいというだけの単純なことだ。
住宅ローン市場を下支えする企業が会員となっている米抵当銀行協会(MBA)は、監視機関に対して、ブローカーディーラーたちは住宅ローン会社との建設的な関係を目指すよう指導するべきであると要請している。
さらに、ブルームバーグによると、大量の追証が発動されたことで、ローンの債務不履行が広まるという脅威が生じ、それにより商業不動産担保証券が大量に売られるという事態が発生しているという。そのため、商業不動産市場にも苦痛をもたらしている。Colony CapitalのCEOであるトム・バラック氏は、先週末の日曜、嘆願の声明を発表し、その中で追証に対する支払いへの猶予と、商業不動産に関連付いた債券の大量売却を阻止するために連銀が買い入れを行うよう求めている。
つまり、現在のアメリカの不動産市場は次のような事態となっている:
- モーゲージ担保証券(MBS) – 住宅ローンの貸し手は、ヘッジ取引が失敗したことにより存続の危機に直面。しかもそれは、連銀が行なっている未曾有の市場介入、つまり巨額の資産買い入れ政策が原因となっている。そして住宅ローン融資会社は、連銀に対して資産の買い入れを行うことを停止すること、そして彼らを救済することを要求している。
- 商業不動産担保証券(CMBS/ABS) – mREITsとファンドは、過剰なレバレッジ(借入にショート取引し貸付にロングすることで手っ取り早く金儲けするという計画)により流動性が逼迫したことで崩壊しかかっている。(こうした手っ取り早い金儲けの計画は、連銀が投入する無限の流動性資金と人為的に低く押さえ込まれた金利によって後押しされている。)そして現在、彼らは連銀に対してさらに商業不動産担保証券を買い入れ、会計ルールを緩和し、全ての追証を免除するよう要求している。
これをモラル・ハザードと言わずして何と呼ぶだろうか。アメリカのビジネス界のエリート層たちは、パンデミック危機に便乗して自らの過ちの尻拭いを政府救済(税金)で補おうと余念がない。現在のアメリカ経済界では、このようなモラル・ハザードがあらゆるところで発生している。
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