【オピニオン】野村HDや三菱UFJ証券に波及したアーキゴス破綻やスエズ運河の座礁は<米中ハイブリッド戦争>——「物理的戦争の前には必ず金融戦争がある」
トム・ルオンゴ筆|2021年4月2日|Gold Goats ’N Guns掲載
(太字強調はBonaFidr)
映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964年製作)のエンディングを覚えているだろうか?ロシアの大使が人類を滅亡させる兵器の存在について明かすと、ストレンジラブ博士は、誰もがそれら兵器の存在を知ることになれば、そのような兵器は抑止力にしかならないと指摘する。
秘密の兵器には、地殻変動を引き起こすような攻撃を抑止する力はない。
ロシア大使からの返事は、「月曜日の党大会で発表することになっている」という、時代を感じさせるものだった。
アーキゴス・キャピタルの終焉という不思議な問題を考えるときに、このことを思い出してほしい。
何か事件が展開しているのを見ても、私は何の意見も抱かないことがある。スエズ運河の封鎖もその一つだった。 明らかに「これは悪い事態だ」と感じる自然なリアクションは抱いたが、それを超えて、これについては注意しなければいけないと意識して自分に言い聞かせなければいけなかった。しかし、考えれば考えるほど、この出来事は重要な意味を持ってくる(私が今後行う投稿ではさらにそうなる)。
それとは対照的に、月曜朝、アーキゴス・キャピタルが一瞬にして蒸発してしまったことに関する1本の記事を読んだ時、私はドブネズミ臭を嗅いだ。少なくとも、漠然とドブネズミのような何かの臭いを嗅いだ。そしてその瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、これは大ごとだということだ。しかし、私が大ごとになると思った理由は、(金融ケーブル局の)CNBCやその他の金融専門紙で誰も認めるようなものではない。
それどころか逆に、(主要メディアに出演する)彼らは、力を合わせてアーキゴス・キャピタルの代表ビル・ホワンを悪者に仕立て上げようとしている。彼は「無責任な行動を取った」、「詐欺を働いた」などと非難し、誰もが自分に責任追及が及ばないよう自己保身モードになっている。
まず私の目についたのは、誰が被害に遭ったのかということだ。 クレディ・スイス、モルガン・スタンレー、野村證券だ。そして現在では、野村証券や三菱ファイナンシャル・グループの他に、ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴ、UBS、欧州のドイツ銀行を加えることができる。他にもあるかもしれない。
ヒントNo.1:全て西側の金融機関。
本日掲載されたこの記事が優れた仕事をしており、私たちがこの事件を理解するのを助けてくれている。この記事は、全体像を一つにまとめてくれている。背景情報が以下のパラグラフにまとめられている:
アーキゴスがどのようにして様々な手持ち株について賭け金を積み増していたは、すでに判明している。他のほとんどの投資家とは異なり、アーキゴスは実際に原証券(原資産)やその株に対するコール・ポジションすら所有することはなく、むしろ「トータル・リターン・スワップ(TRS)」や「証券CFD(差金決済)取引」と呼ばれる株式スワップを購入して取引を行っていた。(リーマンショックを引き起こした)クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と同様に、「トータル・リターン・スワップ(TRS)」は、アーキゴスを原証券に対する日々の変動証拠金リスクにさらしており、原証券(原資産となる株)の株価が上昇すれば利益を得ることができるが(逆に株価が下がれば、証拠金としてより多くの現金を用意しなければならなくなり)、原証券の実際の所有者になることはなかった。その代わり、アーキゴスがロングしていた株式は、プライムブローカーが「所有」していた。そのため、アーキゴスには情報開示義務がなく、米証券取引委員会(SEC)の情報開示義務に完全に準拠しながら、完全に秘密裏に取引を行うことが可能だった——アーキゴスは原証券を所有していなかったため、アーキゴスは情報を開示する必要がなかった。シンプルかつ見事だ。
ヒントNo.2:この記事の中で次に紹介されたのは、ビル・ホワンが彼の1000億ドルのねずみ講詐欺というレバレッジがかけられた融資限度額(与信枠)に対して、(株価暴落の影響を抑制するための)ダウンサイド・プロテクションを購入することを拒否していたということだ。しかし私はこの事実に全くショックを受けなかった。
ブルームバーグが付け加えているように、これらのやり取りの中で、(プライマリー・ブローカーの)銀行員たちは、ホワンに対して、一部の株を売却したり、担保を上積みするために現金を調達するなどして、取引に余裕を持たせるように何度も促した。しかし、「彼は譲らなかった」。
実際に何が起こったのか以下に見てみよう。
アーキゴスは、チャイナのファミリー・オフィスだ。バイデン政権は、ロシア、チャイナ、そしてイランとの外交関係を急速に悪化させている。チャイナやロシアに対する、考えうる限りのあらゆる挑発行為が行われている。3月24日、ウクライナは、クリミア奪還をウクライナの安全保障政策とすることで、静かにロシアに宣戦布告した。(この小さなスクープを見つけ出したEconomic Collapse Blogのマイク・スナイダーに謝意を伝える。)
今週初めには、米国の大使が台湾を「国」と呼ぶという、計算された最悪の種類の攻撃を行い、考えうる限りの関係激化を招いている。
私は皆さんに次の質問をしなければいけない:「もしあなたがチャイナだとして、アメリカとハイブリッド戦争をしているとしたら、どのような方法で太平洋の反対側にメッセージを返信するだろうか?」
このハイブリッド戦争という状態は、直接的な軍事力を使った第三次世界大戦の事実上の「代理戦争」であり、2014年のウクライナでのクーデターから始まり、ここ何年もエスカレートし続けている。トランプ政権の最初から最後までその全てが、互いの資本市場や内政に対する非対称攻撃(制裁、報復制裁、関税、為替操作など)という大きなハイブリッド戦争の演習だった。
あなたがチャイナだったらどこかに軍艦を派遣するだろうか?それとも我々の金融市場を攻撃するだろうか?
あるいはもっと重要なこととして、二国間の衝突が爆弾や弾丸を使った物理的(キネティック)なものに発展する前夜の段階で、米欧によるいかなる強力な動きに対抗するために、あなただったら金融危機を煽るために金融業界の複数のセクターに文字通り金融版「戦術核兵器」を仕掛けるのではないだろうか?
過去数週間の連邦公開市場委員会(FOMC)の発言を振り返り、そして四半期ごとの長期金利が米国史上最大の上昇に直面している中、連邦準備銀行(FRB)が冷静さを保っていることを評価するとき、私たちは次のような質問をしなければいけない。
10年物米国債金利の四半期チャート
(Graph via GOLD GOATS ‘N GUNS)
今年年初来、ドルが上昇している。ロシアとチャイナは、金(ゴールド)の価格が昨年8月に1オンス2100ドルに挑戦して以来、切実な攻撃であるこの事態から身を守るために、狂ったように金を備蓄している。
金(ゴールド)の第1四半期のパフォーマンスはひどいものだった。
前にも言ったが、市場が連邦準備銀行(FRB)に何かをしろと叫んでいるにもかかわらず、FRBが取っている今のアプローチは意図的なものだと私は思っていた。このような状況の中、FRBが3月に行った政策変更は、銀行がレポ取引にアクセスする際の限度額を(300億ドルから800億ドルに)拡大しただけだった。これが起きている時、繰り返しになるが、私は彼らが何の準備をしているのだろうか?と疑問に思っていた。
そこで、もし私がチャイナだとして、バイデン政権の外交手腕が欠如している(あるいは意図的にアマチュア的な行動を取っているかもしれない)ことについて、(占いの)茶葉を読んでいるとしたら、私はどのような行動を取るだろうか?
もしFRBがドル高と長期金利の上昇を容認し続ければ、アーキゴスと同じようにいつでも暴発してしまうポジションを抱えているファミリー・オフィスが20~30件あると想像するのはそれほど難しいことではない。規制を受けずに、「証券CFD(差金決済)取引」や「トータル・リターン・スワップ(TRS)」で不透明な取引を行っているファミリー・オフィスが20〜30件だ。
米国が実際に使うことができる最大の武器は金融政策だ。 もし今すぐに、あなたがチャイナの経済成長を暴発させたいのであれば、ドルを上昇させ、流動性を低下させ、そして新興市場やフロンティア市場全体がパニックに陥るようにしなければいけない。そのような市場の多くは、今やロシアやチャイナの同盟国だ。トルコを例に考えてみるといい。
もしあなたがチャイナだったら、どうやってこれを防ぐだろうか? ドルが海外の流動性を奪い始めた瞬間に、西側の資本市場に打撃を与える非対称性の時限爆弾を作ればいい。
まさに「シンプルかつ見事だ」。
物理的(キネティック)戦争の前には、必ずその前触れとして金融戦争がある。 最初に、世界に過剰な「あぶく銭」(=低利の融資金)を供給し、海外の輸出市場が米国の消費市場に供給するために過剰な借り入れ(オーバーレバレッジ)を行うのを許容する。その後、資金の貸し剥がしを行い、安いドルが彼らのお荷物になるのを見届ける。
1997年〜1999年のロシアや東南アジア、2018年のトルコなどがまさにそれだ。
1月にドル高が始まって以来、チャイナの大型株には大規模な調整が行われている。 ダウ・ジョーンズ工業株が上昇する中、MSCI A50中国大型株指数は昨年3月以降の上昇分の40%近くを戻している。
(Graph via GOLD GOATS ‘N GUNS)
もし私がチャイナであれば、アルケゴスをパッと消滅させ、先週のスエズ運河のように西側の金融機関の配管が詰まるのを見届けるだろう。
これが本物のゲームのやり方だ。ファミリー・オフィスという核の時限爆弾がこれだけ(アーキゴスだけ)だとしたら驚きだ。
彼らが購入し狙った銘柄を見てみるといい・・・バイアコム、ディスカバリー、テンセント・ミュージック、バイドゥなどだ。
デリバティブ取引の最初のルールを覚えておくといい:相手が支払えないとき、名目元本(notional)は純資産/正味財産(net)になる。だからこそ、こうしたプライム・ブローカーたちはパニックの深刻化を避けるために、週末中、株式を大幅に値引きして大規模なブロック取引で売りさばき、その一方で私たちには万事順調であると保証していたのだ。
このゲームを実際にプレーするためには、2、3手先まで考えなければならない。
モルガン・スタンレーやクレディ・スイス、そして他の金融機関などは、アーキゴスが保有するデリバティブを彼らは適切にヘッジしていると思っていただろう。しかしそれは、アーキゴスが支払いをちゃんと行っていればの話だ。彼らは、まさか自分たちが不利な立場になるとは思っていなかっただろう。
もしこれが意図的に仕組まれたポイズンピル(毒薬)だったらと考えてみてはどうだろうか?そもそもこの投資ポジションを取ることの目的が、市場の状況に合わせて暴発させることであり、支払いのための資金を調達するつもりなど毛頭もなく、むしろ敵国のプライムブローカーを窮地に追い込むことだったとしたら?
なぜなら、ビル・ホワンがこのような「ルーキー・ミス」を犯すとは思えないからだ。これは彼の無能さが原因ではない。そうでなければ、なぜ彼は(株価暴落の影響を抑制するための)ダウンサイド・プロテクションの購入を断固として拒否したのだろうか?
チャイナ政府を代表してこのようなメッセージを発信するには、100億ドルは小さな代償に思える。
先に紹介した記事はここでも正しい予想をしている。今の状況でアメリカが取る反応で最も可能性の高いものは、何もしないことだ。なぜなら、何らかの反応をしてしまうと、この金融版「戦術核兵器」がいくつ存在しているのか実際の調査を招いてしまうことになり、そしてそれが判明することでどれだけのパニックを引き起こすかに興味関心の目を惹いてしまうことになるからだ。
そう考えると、アーキゴスがみんなに教えてくれたことは、まさにこのことだったのだ。月曜日の党大会が、世界に向けてこれ(秘密兵器の存在)を発表したのだ。
ドカーン。
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