「モラー報告書」そのものが、ロシアの選挙妨害がなかったことを示唆
ニューヨーク州ブルックリンを拠点に活動するジャーナリスト、アーロン・マテ氏が「モラー報告書」を精査した結果、ロシア政府による選挙妨害があったと主張する「モラー報告書」が、実はその根拠を崩壊させる内容であったと報じた。
5月に行われた記者会見で、ロバート・モラー特別検察官は2年にわたって行われたロシアンゲート疑惑の捜査について「その中心的となる疑惑」は実在したと強調した。モラー特別検察官は、ロシア政府は「我々の選挙を妨害するため複数の組織的活動を行なっていた。そして全アメリカ国民はその不正行為について注目するべきである」と宣言した。モラー特別検察官のコメントは、2017年1月に米諜報機関であるCIA、NSA、FBIが発表した報告書” Intelligence Community Assessment (ICA)”と呼応するものであった。同報告書は、ロシア政府が2016年の大統領選挙を妨害する活動を行なっていたと「高い自信を持って」断言できるとまとめている。当時、米国家情報長官であったジェームス・クラッパー氏は、米議会上院の聴聞会で「我が国の選挙プロセスを妨害することを目的にした活動で、これほど攻撃的で直接的なものを我々はこれまで経験したことがないと思う」と証言している。
448ページにのぼる「モラー報告書」では、トランプ陣営がロシア政府と共謀していたという事実は認めていないが、トランプ氏が選挙で勝つようロシア政府が活動していたと大胆に結論づけるための膨大で詳細な情報が含まれている。同報告書では、妨害活動が「主に」二正面で行われていたと主張している。一つ目はロシア軍の諜報員が、民主党側の公には知られたくない文書にハッキングしそれをリークしたというもの。そしてもう一つは、ロシア政府と関係ある闇集団がヒラリー・クリントン候補を貶め、そしてトランプ候補にとって有利と働くような洗練され広範囲に及ぶソーシャル・メディア・キャンペーンを指揮していたというものだ。
しかし、「モラー報告書」を詳しく精査すると、これらの疑惑は、報告書に示されている証拠そのものや、他の一般公開情報によって否定されることがわかる。さらに、捜査そのものに欠陥があることや、捜査に関与した人物らに利害関係があることなどから、捜査そのもの、そしてその結果である「モラー報告書」の信ぴょう性は著しく損なわれているとマテ氏は報じている。
マテ氏は「モラー報告書」の欠陥として次を指摘している:
- 「モラー報告書」は、条件付きの曖昧な表現で主要な出来事を説明している。モラー特別検察官と彼の捜査官は、実際にロシア政府の諜報員が民主党陣営のメールを盗んだという事実があったことや、そのメールがどのようにしてウィキリークスに渡ったのかを確認していない。
- 「モラー報告書」が報じる出来事の時系列が論理的ではない。報告書によると、ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジが民主党陣営のメールの公表を発表したのは、彼がメールを受け取る前になってしまうだけでなく、彼がメールを提供してきた情報源と連絡を取る前だったことになる。
- 存在したとされるロシアの諜報員が、Guccifer 2.0(民主党陣営のサーバにハッキングしメールを盗んだとされる謎のハッカー)と連絡を取り、盗んだメールをアサンジ氏に提供したと「モラー報告書」は示唆しているが、それを疑うに十分な理由がある。
- モラー特別検察官はアサンジ氏への聞き取り調査を行なっていない。アサンジ氏は、民主党陣営のサーバへのハッキングに、ロシア政府は関わっていないと主張している中心的な人物。このこと自体、モラー特別検察官が根本的な疑問に対して捜査するつもりがないことを示している。
- 米国政府の諜報機関職員らは、民主党陣営のメールサーバに対して行われたハッキングについて、決定的な結論を下すことができない。その理由は、彼らがサーバ自体を分析していないからだ。代わりに、彼らは民主党全国委員会(DNC:ヒラリー・クリントン候補の選挙キャンペーンを行なっていた民主党陣営)に雇われていた民間下請け企業CrowdStrikeが行なった犯罪科学捜査の結果に依拠した。つまり、CrowdStrike社は中立的な立場になく、民主党全国委員会(DNC)の下請けとして「ロシア疑惑報告書」を創作したクリストファー・スティールと同じくらい中立性の欠けた立場にある企業であった。このことは、民主党側が雇用していた2つの下請けコントラクターが、ロシア疑惑の元となる疑惑の背後に直接的に存在していることを示す。そしてモラー特別検察官は、この重要な状況証拠を無視している。
- さらに、米政府は、CrowdStrike社と民主党側の法律顧問が、編集された記録を提出することを許可した。これが意味するのは、ハッキングの証拠に関して、何を公開し何を非公開とするかを決めたのは、米政府ではなくCrowdStrike社であるということだ。
- 「モラー報告書」は、露骨にロシア政府がソーシャル・メディア・キャンペーンを実行したとは主張していない。その代わりに、モラー特別検察官が記者発表でも繰り返したように、Internet Research Agency (IRA)として知られている「ロシアの民間組織」が行なったと糾弾している。
- モラー特別検察官は、ロシアによるソーシャル・メディア・キャンペーンが洗練されたものであったと報告しているが、それを証明するに足る十分な証拠は提示していない。ロシア政府との共謀とロシアによるハッキングの疑惑に関しては、民主党側の方が、ロシアによるSNS上の活動について警鐘を鳴らすのに中心的な役割を担ったのであり、その事実が見逃されている。
当時CIA長官であったジョン・ブレナン氏は、モラー特別検察官の捜査へと発展した全ての側面において影響力の大きな、しかし見逃されている役割を担った。当初の共謀に関する捜査のきっかけとなった疑惑、ロシアによる妨害という疑惑、そして妨害疑惑を事実だと主張した諜報機関による評価報告書は彼自身が作成に関わった。しかし、CrowdStrike社やスティール氏と同じように、ブレナン氏は中立的な立場の人物ではない。彼はトランプ氏に対して深い敵意を持った人物として知られている。
しかしこれらは、ロシア政府が「徹底的かつ組織的に」選挙妨害を行なったと、モラー報告書がその中核的な捜査結果として報告していることが必ずしも間違いであるとは意味していない。しかし、それが本当に事実であったと断言できるほど十分な証拠を同報告書は提示していない。報告書の抱えるこれら欠陥は、さらに2つの側面で民主党と共和党が戦わせている激しい議論の中で見落とされている。その2つの側面は、トランプ氏とロシア政府が潜在的な共謀関係にあったことと、トランプ氏による潜在的な捜査妨害だ。
今月下旬にモラー特別検察官が米下院委員会で証言するが、彼が主張しているようなロシアによる広範囲の選挙妨害キャンペーンがあったかどうなのか、それを問いただす質問が重要になってくる。それを質問することで、ロシアゲート疑惑がそもそもどこから始まったのか、そしてそれを捜査する役割を担った人物たちの働きが中立的で信頼に足るものかについて疑問を投げかけることになる。
マテ氏の報告書は全文がここで一般公開されている。
(Photo courtesy of RealClear Investigations)
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