連銀による金利引き下げの翌日に米国株式市場ははやくも下落:トランプ大統領は「問題は中国ではなく連銀だ!」とツイート
昨日10月30日、アメリカの連銀(FOMC)が金利引き下げを発表した。それに敏感に反応し、アメリカの株式市場は急上昇した。しかしその翌日、金利引き下げの効果が早くも切れ、株価は前日終値を下回って下落したため、トランプ大統領は連銀にさらに金利の引き下げを要求する長文ツイートを発信した。
3年前、トランプ大統領は当時のジャネット・イエレンFRB議長が、「巨大で肥大した醜いバブル」を作り出したと非難していた。当時、S&P500は現在より30%も低いレベルであったにもかかわらずだ。トランプ大統領が「巨大で肥大した醜いバブル」と呼ぶ状態より30%もバブルが膨らんだ今の米国市場で、株価が下落していることに不満を抱き、トランプ大統領は今日10月31日、以下の長文ツイートを発信した:
People are VERY disappointed in Jay Powell and the Federal Reserve. The Fed has called it wrong from the beginning, too fast, too slow. They even tightened in the beginning. Others are running circles around them and laughing all the way to the bank. Dollar & Rates are hurting…
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) October 31, 2019
【訳】ジェイ・パウウェル(FRB議長)とFRBに人々は『非常に』失望している。FRBは最初から間違った判断を下していた。その判断は早すぎであったり、遅すぎであった。彼らは当初、金融引き締め政策を行ってしまっていた。他の人たちは彼ら(FRB)よりもうまく立ち回っており、儲かりすぎて笑いが止まらない状態だ。
米ドルと金利は我々の製造業者たちに損害を与えている。我々は、ドイツ、日本、その他の国々よりも金利を低く切り下げるべきだった。我々は、これまでのところ、最大で最も偉大な国家だが、FRBは我々を競争上の劣位にさらしている。我々の問題は中国ではなく、FRBだ!我々は結局、勝利するが。
本日、ダウは、結局パウウェル議長が金利引き下げの発表を行う前のレベルにまで下落して取引を終えた。
パウウェル議長は、「危機が発生しない限り、我々はこれ以上、金利を引き下げることはない」と発言している。
一方、トランプ大統領は、「連銀にいる我々の敵は、金利をさらに引き下げなければいけない」と語っている。
この大統領と連銀の対立は、次にどのような展開を見せるのだろうか?
ここからは推測であるが、トランプ大統領は株式市場を上昇させ続ける、つまりバブルを維持するために、米中貿易交渉をわざと頓挫させて危機的状況を作り出すことで、大統領選挙が行われる2020年11月まで、連銀が連続して金利を引き下げざるを得ない状況に追い込む戦略を取る可能性がある。
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実際、米中貿易交渉に関する今日の報道だけを見ても、相反する報道が混在している。ロイター紙は、中国がアメリカの農産品に対してかけていた関税をさらに撤廃する可能性があることを報じるかと思えば、それとは逆に、ブルームバーグは、米中貿易交渉は決裂するとスクープ情報を報じるなど、情報が錯綜している。
ブルームバーグは、今朝、次のようなスクープ記事を報道した。今月ワシントンDCで合意に達したと言われている「第1弾(フェーズ1)」の貿易交渉の一部合意は、まもなく破綻すると中国政府の高官が密かに疑っており、両国が包括的な最終合意に至る可能性は実質上ゼロであると報じている。
このブルームバーグの報道は、トランプ大統領が中国は妥協するだろうという非現実的な考えを持っていると批判している。
「第1弾(フェーズ1)」の貿易交渉の一部合意では、中国が米国から農産品や航空機などのその他の製品を購入することが含まれている。さらに、中国はアメリカの知的財産を保護することを確約し、両国はともに通貨操作を行わないことに合意するということも含まれている。その見返りとして、米国は10月に予定していた追加関税を行わないこと、そして12月に予定していたさらなる追加関税も撤回することに合意するというものである。
今週チリのサンティアゴで開催される予定であったAPECがキャンセルされたことで、その場で「第1弾(フェーズ1)」の合意に署名する予定が立ち消えになり、米中両国の代表団はより包括的な合意に向けて協議を継続するチャンスを手にしたと報じるメディアがある。
しかしブルームバーグに語った情報源とされる人物たちによると、中国政府が考えている「第1弾(フェーズ1)」に最終合意するための最低条件は次のようなものであるという:
- 「第2弾(フェーズ2)」の交渉における関税をアメリカ側が撤廃することを確約すること
- そして12月に発動予定のさらなる追加関税についても撤回することに合意すること
中国政府の立場について詳しい複数の人物らは、関税はすぐに撤廃される必要はないと語っている。しかし、(第1弾、第2弾の)関税は、次の交渉ステージに含まれなければいけない。中国はまた、第1弾の合意に含まれるものとして、スマートフォンや玩具といったアメリカ人消費者に人気の製品に対して12月15日にかけられる予定の新たな追加関税をトランプが撤回する必要があるとこれら人物は語った。
このブルームバーグによるスクープが報じられると、S&P 500種ミニ先物(S&P 500 mini Futures)は、昨日、パウウェル議長(FOMC)による金利引き下げ発表を受けて上昇していた半分を失う下落となった。米ドル・オフショア中国元のレートも、このニュースを受けてFOMCによる金利引き下げ発表以前のレベルにまで続落している。
中国政府はさらに通商交渉を行うことにオープンであるという姿勢を示しているが、中国側の政府高官らは、これ以上交渉を続ける意味はないとする非公式見解を抱いているとブルームバーグは報じている。当初から、アメリカ政府が要求する大幅な構造的変革の多くが、中国政府にとっては受け入れがたいという。アメリカ政府が貿易戦争の中で追加した関税を全て撤回しなければ、いかなる要求も交渉の余地はないと中国政府側は考えている。実際、中国政府側は、いかなる最終合意にも、全ての追加関税を撤廃することが含まれなければいけないと要求している。これが実現されなければ、いかなる要求も習近平にとって「政治的に実行不可能」であるという。
しかしうがった見方をすると、このブルームバーグに情報提供した人物たちというのは、トランプ政権の内部の人間かもしれない。というのも、先述したように、連銀(FOMC)のメンバーのうちの2名は、昨日の金利引き下げに反対票を投じており、パウウェル議長自身も「危機が発生しない限り、我々はこれ以上、金利を引き下げることはない」と発言している。トランプ大統領にとって、連銀(FOMC)にさらなる金利の引き下げの判断をさせるために残された方法は、中国との通商交渉が暗礁に乗り上げたと宣言し、わざと「危機」を演出することだ。
米中貿易交渉にそもそも合意するつもりがないのは、トランプ大統領自身なのかもしれない。少なくとも2020年11月の大統領選挙までは、米中貿易交渉が収束することはなさそうだ。