SoftBankへの融資を大手邦銀が渋り始めたとブルームバーグ紙が報道:投資先Oyoの問題はインドから中国へも拡大し課題は山積
三菱UFJ銀行、三井住友銀行(SMBC)、みずほ銀行の大手邦銀3行は、これまで長年の優良顧客であったSoftBankグループ(以下SoftBank)へ追加融資を行うことを渋っていると、今週ブルームバーグがその詳細を報じた。
WeWorkへ行った巨額の投資の失敗を考えれば、日本のメガバンクがSoftBankへの追加融資に二の足を踏むのは当然である。大手邦銀の3行は、SoftBankに対して既に数十億ドル(数千億円)規模のエクスポージャーを抱えている。
事業拡大ではなくIPOに失敗したWeWorkを救済するために追加融資を必要としているSoftBankにとって、今年は面目丸潰れの年であることは間違いない。
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今年、SoftBankは十数件の投資案件で問題を抱えている。その中で最大の失敗がWeWorkとウーバーである。特にWeWorkは、その最大の出資者であるSoftBankから緊急的に60億ドル以上の救済資金が投入され、誰もが固唾を飲んでその再建計画を見守っている。WeWorkは規模の面から言っても特に巨大投資案件であり、再建が進められてはいるが、投資としては大惨事に終わることは目に見えている。
そしてSoftBankによる投資プロセスは問題だらけであったということが様々な証拠から明らかとなっている。孫社長自身、WeWorkのCEOであったアダム・ニューマン氏と20分面談しただけで投資することを決定したと語っている。孫社長はたった20分間の面談を行っただけで、SoftBankおよびビジョンファンドから数十億ドルもの巨額の資金をWeWorkに投資するコミットをした。もしWeWorkへの投資が成功していたなら、孫社長は人や投資案件を一瞬にして見抜く目があり、投資の天才と(再び)呼ばれていたのだろう。しかしWeWorkのように失敗してしまえば、ニューヨーク大学ビジネス・スクールのスコット・ギャロウェイ教授が「ダニング=クルーガー効果」(*)だと指摘するように、それは単なる「阿呆(stupid)」だ。
(*)ダニング=クルーガー効果(ダニング=クルーガーこうか、英: Dunning–Kruger effect)とは、能力の低い人物が自らの容姿や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまう優越の錯覚を生み出す認知バイアス。この現象は、人間が自分自身の不適格性を認識すること(メタ認知)ができないことによって生じる。1999年にこの効果を定義したコーネル大学のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーは、「優越の錯覚を生み出す認知バイアスは、能力の高い人物の場合は外部(=他人)に対する過小評価に起因している。一方で、能力の低い人物の場合は内部(=自身)に対する過大評価に起因している。」と述べている。(出典:ウィキペディア)
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SoftBankによる最新の投資失敗事例として、今週月曜、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、Oyoについて報じている。Oyoは、SoftBank最大の出資先企業の一つであるが、中国国内で反発が起きている。
先週、中国国内の172件のホテル事業者らが連名で署名した書簡によると、Oyoは「不明瞭な請求および恣意的な売上金からの天引き」を行なっていると同社を批判している。さらに、ホテル事業者らが申し立てしている問題が早急に解決されなければ、法的手段に訴えると同書簡は記している。
インドで創業されたホテル・グループのOyoは、本国でも同様の批判を受けていることを以前ロイター紙が報じていた。
中国市場でもOyoに対して加盟ホテル事業者が不満を募らせていることは大きな問題である。なぜなら、この夏締め切られた資金調達ラウンドで、Oyoの企業バリュエーションは100億ドルへと2倍に急上昇しており、このことが失敗続きのSoftBankにとって一息つける投資案件となっていたためである。
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SoftBankが追加融資を求めている三菱UFJ銀行、三井住友銀行(SMBC)、みずほ銀行の大手邦銀は、もし追加融資の依頼に応じる場合、彼らが抱えるSoftBankへのエクスポージャーは150億ドルへと膨らむことになる。
ブルームバーグ紙に匿名で語った情報源の人物によると、SoftBankは11月26日に、これら3大メガバンク全てと信用枠について議論するために面会したと報じられている。WeWorkの経営層たちは、同社を救うための再建プランをこれらメガバンクに対して説明したとも報じられている。これは重要な情報である。というのも、SoftBankがWeWorkを再建するための信用に足る戦略を構築できなければ、SoftBankに対して引き続き融資することには躊躇していると、これらメガバンクの行員たち数人がブルームバーグ紙に語っているためである。
「日本の銀行が融資を行ってきた理由の一部は、孫氏の経営能力と才能にある。(しかし)WeWorkの問題により、銀行を納得させてきた(孫氏を信じる)根拠の一つで崩壊が起きてしまった」と、DZH Financial Research Inc.のアナリストであるタナカ・カズミ氏は語っている。
一方、孫社長は、念のために、これまで日本のメガバンクに依存してきた銀行融資を分散化し始めているようである。WeWork救済パッケージの一部として、ゴールドマンサックスがSoftBankに17億5000万ドルのクレジットライン(与信枠)を提供することが既に報じられてたが、今週火曜、この報道内容が事実であると、本件を知る複数の人物たちが認めたとブルームバーグ紙が報じている。SoftBankがWeWorkを救済するために提供する50億ドルの資金供給パッケージの一部として、ゴールドマンサックスは既に17億5000万ドルのクレジットライン(与信枠)を提供済みであるとも報じられている。
「WeWorkおよびSoftBankグループが、ゴールドマンサックスとの誓約書を締結したことを、私たちは喜ばしく思っています。・・・WeWorkおよびSoftBankは、それぞれ優先担保付方式および優先無担保方式で共同債務者となっています」と、WeWorkの広報担当者であるエリン・クラークはブルームバーグへ送ったメールの中で記している。
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追加融資に躊躇している日本のメガバンクであるが、それでも結局はSoftBankへ追加融資を行う可能性が高い。長期化する超低金利で銀行経営がますます苦しくなっている中、SoftBankの信用格付けは投資適格水準の格付けよりも1段低いBB+であることが関係している。つまり、SoftBankへ貸し付ける資金にはより高い利子がつくことを意味し、銀行にとって孫氏は多額の資金を借りて多額の利子を払ってくれる大口の「優良」顧客なのだ。
元投資銀行員で現在は立教大学のビジネス・スクール教授の田中道昭氏も、「日本の銀行は懸念を高めているかもしれないが、それでもなお彼らはさらに支援を行うだろう」とブルームバーグ紙に語っている。
しかしSoftBankは1310億ドルもの長期債務を抱えていることも事実である。ブルームバーグが集計したデータによると、上場している非金融企業として、これはAT&T Inc.に次ぐ第2位の債務金額である。SoftBankが財政危機になるということは、同社への主要な貸し手である日本のメガバンクに対する信用も揺らぐことになる。日本のメガバンクがこれ以上貸したくなくても貸さざるを得ないもう一つの理由がこれである。そして最終的に、SoftBankのジャンク債の山に身動きが取れなくなるのは、孫社長と彼を支援してきた日本のメガバンクなのかもしれない。
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