【社説】「米国はハッタリをかけているだけ」|環球時報の国際版がトランプはパンデミックにより弱体化しており香港には介入できないという論説を掲載
Rabobankでアジア太平洋地域の金融市場リサーチ部門トップを務めるマイケル・エブリ氏(香港が拠点)は、5月25日、解説記事を発表し、米中間の緊張がますます高まっているにもかかわらず、なぜ市場はそのリスクを徐々に下げる評価を行っているのかについて次の仮説を紹介している:
香港金融業界の間では、米国がEUのように『紙の虎(こけおどし)』であり、本当の闘いを行う根性がないのは絶対確実であると考えられている。さらにトランプはウォール街へあまりに恩義があるため、あえて行動を起こすようなことは決してないと考えられている。
エブリ氏自身は、こうした香港金融業界の人間たちによる楽観論に反対の意見である:
(こうした香港金融界のスタンスは)北京政府による自信の現れであるが、首都ワシントンDCにおける党派を超えた怒りを完全に見誤っている。現実は、民主・共和の両党が、2020年大統領選挙戦において互いを攻撃するための材料に北京政府を(槍玉に)利用している。さらに、米国は、その軍事力と同じくらい恐れるべき金融という武器を持っていることや、連銀が株式市場を買い支える活動を行っていることなどを北京政府は見誤っている。
そしてこれと同じ5月25日、中共のプロパガンダ機関である環球時報の英語版Global Timesが、社説記事を掲載した。社説の執筆陣は、トランプがまさに『紙の虎(こけおどし)』であると豪語しており、中共政府が香港に対して国家安全法の議案を提出したことについて、「米国が香港について発言していることは、『肉が入っていないハンバーガー(=何でもない、意味がないもの)』」と完全にみくびる論説を展開している。
Global Timesは非常に愛国主義が濃厚で、強行路線の発言を英語で西側諸国に向けて行うプロパガンダ機関として有名である。この社説もその例に漏れず、「米国はふたたび西側陣営を引き連れチャイナ包囲網を敷こうとしている」と厳しく批判している。さらに、こうした米国による態度は、「新興市場が興隆し、発展途上国がますます独立してきている」結果、「西側の価値観が圧迫を受けている」ことに突き動かされた姿勢であると、苦しい論を展開している。
その一方で、香港が完全に国内問題であり米国の問題ではないという点については、一理ある論を展開している:
香港の国家安全法のために(外国が)戦うというのは普遍的な価値ではなく、厳格な審判を受けることに耐えることができない。国家安全保障は、どの国にとっても最重要事項ではないのか?ワシントンDC(米国政府)は常に国家安全保障を言い訳にして通常の商業活動を抑圧している。香港における国家安全法が、同市の高度な自治を脅かしその自由に終止符を打つと言っても、西欧人全てを騙すことなど到底できないだろう。まして国際コミュニティー全体を操ることなどできないだろう。
問題は、香港が完全にチャイナによる統治の下に返還された場合、誰がより苦しむかということである。トランプ大統領は、万が一、香港が米国から認められている貿易上の恩恵待遇の地位を失う場合、香港はチャイナへの金融ゲートウェーとして機能しなくなるだろうと語っている。これに対して、チャイナは、米国がもはや重要なパートナーではなく、外資の主要な源泉ではないと反論している(この点に関しては、チャイナの資本勘定がマイナスに転じようとしていることを考えると、チャイナのほうが強がった発言をしている「紙の虎」である)。しかしGlobal Timesの社説は、香港と米国の関係が徐々に解消されるに伴い、それは香港とチャイナの関係がより強力になることで置き換えられると主張している:
香港の国際金融センターとしての地位にとって最大の柱は、チャイナ大陸への窓口としての役割であり、大陸経済との特別な関係である。
米国によって与えられている貿易上の特別待遇の地位は重要ではあるが、それは香港が金融センターであるか否かを決定する決定的要因ではない。チャイナ大陸における経済が成長している限り、香港が衰退することはない。もし米国が香港に対する政策を変更する場合、それは(ウィン・ウィンではなく)「ルーズ・ルーズ」の状況を招くだろう。しかし香港は(その変化に)適応することができ、チャイナ中央政府の支援を受けてその繁栄を維持することができるだろう。
しかしこの社説記事で最も注目すべきは、米国がコロナウイルス災禍によって10万人近くの米国人の命が失われるという「こじれた」状態に陥っている結果、トランプは、外国に介入するために必要な「手段やリソース」を発動することは不可能だろうと論じている点だ:
米国はCOVID-19(武漢ウイルス)によってこじれた状態にあるため、外国に介入する能力は弱体化している。ホワイトハウスはチャイナに対して制裁をかけると主張しているが、米国政府が持つその手段とリソースは、今回のアウトブレークが発生する以前のレベルから縮小している。米国はただ単にハッタリをかけているだけである。
もし、新型コロナ・パンデミックにより米国は弱体化し外交上の挑戦に応じることができなくなっているという論説が、北京の指導者層たちが考えている基本的な見方であるとすれば、チャイナはますます武漢から発生したこのパンデミック・ウイルスを、確実に世界に広げ、米国をウイルスによって疲弊させようとするだろう。中共政府のプロパガンダ機関によるこの社説は、まさにチャイナがこのウイルスを米国との覇権争いの中で意識的に利用している(少なくともそうした動機を持っている)ことが透けて見える内容となっている。
そしてこの社説の結論部分では、西側世界が一見連帯しているように見えるが、「チャイナの巨大な市場」を失うリスクに直面すると、北京政府への反対意見は消えて無くなると豪語している:
西側全体は、米国には従わないだろう。チャイナは巨大なマーケットであり、もし西側諸国がチャイナから離反した場合、発生する損失を埋め合わせるような十分な補償を、米国はもたらすことができない。価値観というものは依然として強力なアピールではあるが、しかしそれは発展を追求する国にとって基本的な利益に置き換わることはできない。しかも、チャイナは西側諸国の生活様式に介入したことはない。釣り合わない経済コストを犠牲にして、価値観に基づきどちらか一方の肩を持つというのは、21世紀における国際関係のロジックではない。
最近も、EUの政府高官が中共の圧力に屈してチャイナを批判する調査報告書を発表直前に書き換えていたように、ここ数年ヨーロッパ諸国が人権重視という表向きの顔とは別に、裏でどのようにチャイナと関わってきたかを考えると、このGlobal Timesの論説は単なるチャイナの強がりではなく、真実をついた発言と言えるだろう。シリコンバレーの大手IT企業も、チャイナとのデカップリングに反対し、いまだにアメリカ政府の政策に反して密かにチャイナ企業にサービス提供している。そして世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者レイ・ダリオ氏も、「分散投資をしたければ、(米中)2頭の馬に賭けるべきだ」と語っている。
西側諸国にとって所詮は自国・自社の経済的利益が最重要であり、チャイナ国内の人権問題や人道に対する罪は、「経済的に釣り合わない」外国の問題でしかない。それにあえて介入したくはないというのが本音なのだ。それが天安門事件以来、ずっと行われてきたことであり、チャイナも西側の政治家や企業経営者がうわべでは綺麗事を言いつつ、裏では自己の利益のために行動することを熟知しているのである。
そしてこの論説記事は最後にこう記している:
そういう訳で、チャイナが香港の人々の基本的権利と利益を守りながら、チャイナが事実ベースで行動し、断固として香港のために国家安全法を策定し、同法の対象範囲を国家安全保障と同市の「一国二制度」原則の下での安定を確実なものにするためだけに厳密に制限する限り、チャイナは香港の問題で主導権を握るだろう。
この最後の部分は、中共政府による完全なプロパガンダだ。
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