アメリカ経済、景気後退へのデジャブ?− 2019年9月と2007年9月との酷似した関係
昨日9月18日、米国では連邦準備制度理事会(FRB)のパウウェル議長が米連邦公開市場委員会(FOMC)の定例会合を終え、FFレート(金利)の誘導目標レンジを1.75〜2%とし、0.25ポイント引き下げる発表を行なった。しかし2008年世界を席巻した金融危機を覚えている人の中には、この定例会見に既視感(デジャブ)を覚えた人が少なくなかったようだ。
NorthmanTraderの設立者でマーケット・ストラテジストのスベン・ヘンリック氏は、昨日のパウウェル議長の定例会見が、「バーナンキ・モーメント」であり2007年の状況と酷似しているとする意見記事をMarketWatchに寄稿している。(バーナンキは2007年当時のFRB議長。)
「昨年以来、アメリカにおける実質GDP成長率は減速している。FRB議長は、成長率は減速しているとしながらも、景気後退リスクは存在せず、FRBは経済が引き続きポジティブ成長を続けると予想しているとするシグナルを送った。逆イールド曲線など、経済減速の警告サインは無視され、株式市場は上昇を続けている。実際、7月には過去最高値を記録した。8月に入って株式市場は修正局面を迎えて一時下落したが、その後、株価は回復し9月初旬まで上昇基調が続いている。そして9月18日、FRBは金利の追加引き下げを発表した。」
これはいつのことを説明していると思うだろうか?今年ではない。2007年のアメリカ経済を説明している。しかし、これは今年2019年7月〜9月初旬までの米国経済の状況とあまりに酷似している。
実際、12年前の2007年、逆イールド曲線が発生し、前年(2006年)と比べてアメリカの経済成長率は減速していた。しかしS&P500指数は2007年7月に最高値をつけ、その後8月に修正局面が発生し(2019年8月と全く同じ)、そしてFedは9月18日(奇しくも2019年と全く同じ日!)に金利を引き下げた。
2007年10月、株式市場は一瞬史上最高値をつけたが、その後、暴落し世界金融危機が発生したことは誰もが知るところだ。
現在の米国市場は、2007年後半の状況とあまりに酷似している。しかし、必ずしも、今年12月に2007年の時のようなマーケット・クラッシュが起きるわけではない。しかしその時と同じ材料が揃っており、欠けているのは、マーケット・クラッシュを引き起こす「引き金」だけとなっている。先週、サウジアラビアの原油施設が攻撃されたことが、その「引き金」だったのかもしれない。何が経済不況の引き金となるかは、実際に不況に突入してから振り返ってみないと判明しない。アメリカの住宅バブルかもしれないし、GEの巨額粉飾決算かもしれないし、レポ取引の利率急騰の原因となった「何か」かもしれない。
2007年9月のFRB議長による金利引き下げの発表を受け、10月に株式市場は史上最高値をつけた。そして11月、当時のベン・バーナンキFRB議長は、景気後退は起きていないと発言した。2007年11月のロイター記事によると、バーナンキ議長は連邦議会の委員会に対して、「我々の評価では、来年に向けて経済減速は起きているがポジティブ成長は続いている」というものだった。しかし実際は、米経済は2007年12月に不況に突入した。
当時のバーナンキ議長の発言は、恐ろしいほど今のパウウェル現議長の発言と酷似している。今年9月6日、パウウェル現議長は、次のように発言している:
我々は、不況が起きると予測していないし、そうなるとも思っていない。最も起きる可能性が高いのは、依然として穏やかな成長、力強い雇用市場、そして上昇し続けるインフレ率である。
これは、2007年11月のバーナンキFRB議長と、今年9月6日のパウウェル議長の発言が酷似していることを指摘しているスベン・ヘンリック氏のツイート。
Powell September 6:
“We’re not forecasting or expecting a recession,” he said. “The most likely outlook is still moderate growth”
“Our main expectation is not at all that there will be a recession,” Powell said.”https://t.co/y9qq1jczvq— Sven Henrich (@NorthmanTrader) September 16, 2019
もちろん2007年と今年2019年の両者には違いもある。しかし、両者には重なった複数の環境要因があるのも事実だ。実際、株式市場は2007年に酷似した相関関係のある値動きをしている。そしてFRBも同様に酷似した動きをしている。
少なくとも、FRBは、いつ不況が始まるかは決して発表しない。実際に不況が発生し、それが事実として否定しようがない状況になって初めて、FRBは不況に入った事実を認める。しかし、それまで、FRBは決して不況の兆候があることや不況が起きる可能性が高まっていることは認めない。
2007年、FRBのバーナンキ議長が連邦議会で不況は起きないと証言した。その1ヶ月後に、アメリカ経済は不況に突入した。歴史が繰り返されるとすれば、昨日、FRBが追加利下げを再び行い、パウウェル議長がバーナンキ議長と同じ声明を発表したが、その声明には全く根拠がないということになる。パウウェル議長は、9月6日に発表した声明の中で、「不況について予測もしていないし起きるとも思っていない(Not forecasting or expecting a recession)」と発言した。これは、2007年にバーナンキ議長が不況の発生を欺く発言を行ったのと同じ、「バーナンキ・モーメント」なのだろうか?
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