株式市場の崩壊が近い?:ノーベル経済学賞受賞者ロバート・シラー教授が「バブルはあらゆるところに発生している」と講演
2000年〜2001年にかけて崩壊したアメリカのドットコムバブルを、「根拠なき熱狂(Irrational Exuberance)」と題する書籍の中で予言していたのが、ノーベル経済学賞受賞者のロバート・シラー教授だ。彼はこの書籍をナズダックが史上最高値をつけた2000年3月に出版していた。もともと、1990年代に、当時のFRB議長だったアラン・グリーンスパン氏が、加熱する株式市場を指して「根拠なき熱狂(Irrational Exuberance)」と講演の中で発言して有名なフレーズにになった。
イェール大学のロバート・シラー教授は、先週10月23日、ロサンゼルスで投資家向けに講演を行い、「バブルはあらゆるところに発生している。逃げ場はない。この流れを一緒に乗り切るしかない。価格は下がることがわかっていても、投資しするしかない」と発言した。シラー教授は、2000年の株価暴落だけでなく、2007年のアメリカ住宅市場の暴落も予言していた。
今回もまた、アメリカの株式市場(S&P500)が史上最高値をつけた5日前に、シラー教授は経済の暴落を予言した。奇しくも、今月はブラックマンデーからちょうど90周年目にあたる。1929年10月28日、ダウ・ジョーンズ工業株30種平均は13%下落した。この数字は、いまだに人類史上2番目の大幅下落となっている。それから大恐慌に突入し、投資家が株式の暴落から回復するのに25年の歳月がかかった。
シラー教授は、株式市場、債券市場、そして住宅市場にバブルが発生していると分析している:
これから先は下落するだけと分かっている状況にいる・・・しかしそれを乗り越えるために十分な蓄えは貯めている。私たちに選択肢はない。
シラー教授は未来の米国株の投資リターンはパッと冴えないものになると予想している。
2013年にノーベル経済学賞を受賞したシラー教授は、この先30年間は、米国株の年率投資リターンは平均で4.4%程度になるだろうとInvester’s Business Daily紙に語った。これはかなり低い数字だ。市場が長期的リターンとして期待している数字の半分以下であり、年金基金が必要とするリターン率よりもかなり低い。インデックス・ファンド・アドバイザーは、S&P500の長期的リターン(期待値)は9.84%であると語っている。
株式市場は、過去数年間で株価が高騰してしまったため、バリュエーションが過大となっている。事実、米国の株価は、2009年3月9日の底値以来、348%も上昇している。これにより、投資家のポートフォリオ価値は29兆ドル近くも増えている。
バリュエーションが高いということは、将来の利益を現在奪っていることを意味するとシラー教授は言う。米国株に関するいわゆるCAPEレシオ (Cyclically Adjusted Price-to-Earnings Ratio) は、29と高い水準である。CAPEレシオは、短期の要因を排除して、現在の市場がどれほど割高であるかを示す指標である。
CAPEレシオ (Cyclically Adjusted Price-to-Earnings Ratio) は、景気循環調整後の株価収益率(PER)を示す投資指標である。株式市場の長期的な評価に用いる。 1988年にエール大学のロバート・シラー教授とジョン・キャンベルが公式に定義し、シラーPERとも呼ばれる。単年度の1株当たり利益ではなく、インフレ調整後1株当たり利益の10年移動平均値を用いてPERを計算する。これにより一時的要因による収益変動や景気循環の影響が除外されるため、実質的な企業収益力との関係で株価の割高・割安性が示される。 (WikiPediaより引用 )
「CAPEレシオが29というような高い数値を示したことは、歴史上、数回しかない。1929年に30の半ばまでつけたことがある。これが史上最高値だ」とシラー教授は語っている。その史上最高値をつけた後、市場は1929年に大暴落し世界大恐慌が始まった。
シラー教授は、CAPEレシオが現在の値よりもさらに高まる可能性があると指摘する。これは「根拠なき熱狂」がしぼむまで上昇を続ける。
「(CAPEレシオは2000年から2002年にかけて市場が49%も暴落する直前の)2000年に45まで上昇した」とシラー教授は続けた。しかし現在のCAPEレシオは、1987年10月19日に市場が1日の数字としては最大の23%の下落を記録した直前のものよりもやや高い状態であるという。
2007年から2009年にかけて株式市場が57%も暴落する直前、「2007年当時のCAPEレシオは現在と同レベルである・・・つまり、20年前に起こったように、(株式市場のバリュエーションは)45まで上昇することが可能で・・・その半分の価値を失うということを歴史は示している」と語る。(太字強調は訳者。)
シラー教授:債券市場のブームも持続不可能である
シラー教授は、株式市場と同じくらい債券市場についても懸念を抱いている。投資家たちは、安全で確実なリターンを求めて債権を買い求めており、最も注目されている資産クラスの一つとなっている。SPDR ポートフォリオ米国総合債券 ETF(SPAB)は、今年、8.31%という株式のような投資リターンを実現した。過去10年間における平均の年間リターンは3.7%であり、その2倍以上のパフォーマンスである。投資家たちは投資資金を債権ETFに注ぎ込んでおり、変動率の高い株式市場から資産を守り、ある程度の投資リターンを確保しようとしている。
こうした市場の動きに対し、シラー教授は次のように語っている:
(債権のバブル)は、単純なロジックと関係しているように見える・・・これは今のまま続けることはできず、いずれ悲惨な終わり方をする。これら(債権バブルは)ある時点で沈没する可能性がある。
米国外にいる投資家たちは、マイナス金利の債権を買いあさっている。彼らは、金利がさらにマイナスになることを期待しており、そうなった場合にいずれ他の誰かに債権を売却することができると思っている。債権が満期を迎えるまで保有しなければ、マイナスの投資リターンを確定しなくてすむ。
住宅バブルについて:「2005年の再来のようだ」
シラー教授は、2005年の時のような住宅バブル期に現在入っていると語った。これは、住宅バブルが拡大してしまっているものの、逆放物曲線を描くようにいまだに拡大し続けている状態である。
「再び2005年のような状態だ。サンフランシスコやロサンゼルス市場はすでに減速している。これは悪い指標だ」とシラー教授は語る。これらの米国内の住宅市場は、何年間も上昇を続けているためだ。
不動産関連株は熱狂に火がついた状態である。不動産セレクトセクターETF(XLRE)は、年初来だけで29%近くも上昇している。S&P500が20%のリターンを達成しているのと比べて、格段の投資リターンを達成している。しかもこの29%という投資リターンには、不動産セレクトセクターの2.8%にのぼる配当率を含んでいない。今年、リターンが最も高かったセクターはテクノロジー・セレクト・セクターSPDR ETF (XLK) であるが、不動産セレクトセクターETF(XLRE)のリターンはそれをわずかに下回った2位のリターン率となっている。
しかしシラー教授は、2000年代の住宅バブルの崩壊を覚えている人たちはまだ多くいるため、「住宅価格が下がることがある」ということを記憶している人は多いと言う。しかも、「現時点ですでに我々は当時ほど熱狂していないことを考えると、(住宅価格の)パフォーマンスが同じように繰り返されるかは確信がもてない」とシラー教授は語った。
闇の中の光明:国際株市場(*)
世界がこのような「根拠なき熱狂」をかわすことができるのは、欧州であるとシラー教授は語った。先進国の国際株は、グローバル市場の株価のブームから大きく取り残されてきている。シラー教授は、欧州株の価格は、米国株のものより3分の1ほど安いと見ている。
(*)シラー教授は、米国市場を除いた他の市場を「国際」と呼んでおり、日本市場もこの「国際市場」に含まれている。
バンガードFTSE先進国市場ETF 投資信託(VEA)は、過去10年間、年率平均にしてわずか5.07%のリターンしか達成していない。これは、長期的な国際株のリターンの期待値のおよそ半分である。しかし投資家たちはすでにこの市場に資金を移動しており、バンガードFTSE先進国市場ETF 投資信託(VEA)の年初来のリターン率は14%を記録している。
しかしそれでも、「欧州に対する期待値は、米国よりも高いだろう」とシラー教授は語った。
* * *
以下は国際株ETFの中で運用資産規模が大きいものからトップ5位をリスト化したものである。
運用資産規模別国際株ETFトップ5件
ETF名 |
シンボル |
資産規模 (単位:10億ドル) |
管理費率 |
Vanguard FTSE Developed Markets ETF |
(VEA) |
$73.8 |
0.05% |
iShares Core MSCI EAFE ETF |
(IEFA) |
$67.0 |
0.07% |
iShares MSCI EAFE ETF |
(EFA) |
$60.3 |
0.31% |
Schwab International Equity ETF |
(SCHF) |
$19.2 |
0.06% |
iShares Edge MSCI Min Vol EAFE ETF |
(EFAV) |
$12.4 |
0.20% |
Sources: ETF.com, S&P Global Market Intelligence
Photo via VOX
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