ジョージ・ソロス氏にとってもコロナ災禍は人生初の危機 |「トランプは自己崩壊」、「習近平は弱体化」、「EUは存続の危機」と現在の世界情勢に対する見解を語る
シュミッツ:この権力闘争において、EU——あなたが非常に気にかけている故郷——はどのような役割を果たしているだろうか?
ソロス:私は、EUが生き残ることができるかについて特に懸念している。なぜなら、EUは未完成の連合体だからだ。それは生まれる途中だった。しかしその生成プロセスは決して完了することがなかったため、ヨーロッパを格別に脆弱な存在にしている。米国よりも脆弱だ。それが未完成の連合体だからということに加えて、それが法の支配に依拠しているからでもある。そして司法手続きは非常に遅々と進む。その一方で、COVID-19ウイルスといった脅威は非常に早く進む。これは、EUに特別な問題を生じさせる。
シュミッツ:ドイツの連邦憲法裁判所は、先週、欧州中央銀行(ECB)に関する最新の判決を下し、非常に衝撃的なニュースをもたらした。あなたはこれはどれほど深刻なことだと考えているだろうか?
ソロス:私は、これは非常に深刻だと考えている。この判決は、法の支配に依拠した機関としてのEUを破壊する可能性があるような脅威をもたらしている。なぜなら、この判決は、ドイツにおいて最も権威ある機関であるドイツ憲法裁判所によって下されたからである。ドイツ連邦憲法裁判所は判決を下す前に、欧州司法裁判所に助言を求めていた。そしてその助言に挑戦する判決を下した。つまり、現在、ドイツ連邦憲法裁判所と欧州司法裁判所の間には対立が生じている。どちらの裁判所に優先権があるだろうか?
シュミッツ:専門的には、欧州条約はこの分野において欧州司法裁判所に優位性を与えている。
ソロス:その通り。ドイツがEUに加盟した際、ドイツは欧州法を遵守することにコミットした。しかし今回の判決は、さらに大きな問題を提起した:もしドイツの裁判所が欧州司法裁判所の判断を問うことができるのなら、他の国々もその前例に従うことができるだろうか?ハンガリーやポーランドは、欧州法に従うか自国の裁判所に従うか、自分たちで決めることができるだろうか?この疑問は、法の支配の上に構築されているEUという問題の核心に迫る。
ポーランドは、すぐさまこの難局にうまく対応しており、自らの政府が支配する法廷が欧州法よりも優位性があると断言している。ハンガリーでは、オルバン・ヴィクトル(首相)がすでにCOVID-19による緊急事態を利用し、自身を独裁者として指名するよう議会を牛耳っている。議会は、彼による布告を、十分な検討もなく承認するためだけに開かれている。これは明らかに欧州法に違反している。もしドイツの法廷による判決により、EUがこうした事態に抵抗することが阻害されるとすれば、私たちが知っているような形のEUは終わるだろう。
シュミッツ:欧州中央銀行は、今回の判決により、その金融政策を変更する必要があるだろうか?
ソロス:必ずしもそうではない。今回の判決は、欧州中央銀行に対して、その現在の金融政策を正当化することを要求しているにすぎない。欧州中央銀行がとってきている政策を正当化するために、3ヶ月の猶予が与えられている。ヨーロッパの中で唯一、このパンデミックと戦うために必要な財源を提供することができる機関として、本当に機能しているのは欧州中央銀行だけである中、これは欧州中央銀行の注意の多くを奪うことになるだろう。欧州中央銀行は、復興基金を創設し、ヨーロッパを救済することに注意を集中するべきである。
シュミッツ:その財源はどこから来ることができるのか、何か提案はあるだろうか?
ソロス:私は、EUは永久債を発行すべきだと提案している。というのも、永久債は、英国では1751年以降、そして米国では1870年代以降、その名前で利用され、成功しているからである。現在では、私はそれらをコンソル公債と呼ぶべきと考えているが。
永久債は、「コロナ債」と混同されている。コロナ債は、欧州理事会によって否決されている。それには正当な理由がある。というのも、コロナ債は、EU加盟国が受け入れようとしない累積債務の相互化(mutualization)を暗示しているからである。このことが、永久債の議論に弊害をもたらしている。
現在の苦境は、コンソル公債に関する私の議論を後押ししていると確信している。ドイツの法廷は、欧州中央銀行による政策が合法であると語った。その根拠は、加盟国による欧州中央銀行への出資比率に比例して、欧州中央銀行は債券の買い入れを行わなければいけないという要求を忠実に守っているためである。しかし、(ドイツの裁判所による判決にある)明らかな含意は、欧州中央銀行の出資比率(キャピタルキー)に比例していない買い入れを欧州中央銀行が行う場合、それは法廷によって異議申し立てが行われ、越権行為(ultra vires)と判断される可能性があるということである。
私が提案している債券は、この問題を回避するようなものである。なぜなら、これらはEU総体として発行されるものであり、それは自動的に比率に応じたものであり、永続的にその比率を保つからである。加盟国は年利だけ支払う必要があり、それは例えば0.5%といった僅かな金額である。そのため、この債券は、加盟国による全会一致もしくは有志連合によって容易に承認を受けることができる。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、このパンデミックと戦うために、欧州は約1兆ユーロが必要であると語っている。彼女は、気候変動の対策費用として、それにさらに1兆ユーロを追加すべきだった。もしEU加盟国がコンソル公債を承認すれば、こうした金額を調達することができる。
残念ながら、ドイツと、オランダが主導する「ハンザ同盟」の加盟国は、頑なにこれに反対している。彼らは再検討するべきだ。EUは現在の予算を2倍にすることを検討しているが、それではたった1000億ユーロしか支出できず、永久債がもたらすことができるメリットのたった10分の1しか生むことができない。EUの分担金を最低限に抑えたいと思う人たちは、コンソル公債を支持すべきだ。彼らは、金融取引税のような特定の税金についても承認しなければいけないだろう。これにより、EUは独自の財源を確保でき、AAAの投資格付けを保証できる。しかしこれら税金は強制的に課す必要はない。それをコンソル公債が穴埋めすることになる。これら当事者たちや残るヨーロッパにとって、このほうがずっと良い。年間50億ユーロの(金利の)支払いだが、その現在価値は絶え間なく下落するわけで、これ(わずかな金利)を支払うことで、EUは緊急に必要とする1兆ユーロを確保することができる。これは素晴らしい費用便益比率だ。
シュミッツ:EUが国庫補助に対する規制を緩和した際、ドイツはその要請件数の半分以上を提出した。これが単一市場の原則を弱体化させていると議論する人たちがいる。その理由は、これがドイツに不公平な優位性を与えているためであると言う。これについてどう思うか?
ソロス:彼らの議論に賛同する。これは特にイタリアにとって不公平だ。イタリアはすでにヨーロッパの病人だった。そしてCOVID-19による損害を最も被った。政党「同盟(Lega)」のマッテオ・サルヴィーニ書記長は、ユーロ圏そしてEUを脱退するようイタリアを撹乱している。幸運なのは、彼が政府を去って以降、彼の個人的な人気は下降しているということだ。しかし彼が提唱する主張には支持者が増えている。
これはEUにとってまた別の存続に関わる脅威である。かつて最も西ヨーロッパ統一主義(パン・ヨーロッパ)の国であったイタリアが脱退した後、EUには何が残るだろうか?イタリア人は、自国の政府よりもヨーロッパを信頼していた。しかし彼らは、2015年に起きた難民危機の際に酷い扱いをうけた。それが、イタリア人たちがサルビニの極右「同盟(Lega)」やポピュリストの五つ星運動を支持し始めるきっかけとなった。
シュミッツ:あなたは非常に悲観的であるように聞こえる。
ソロス:まったくそんなことはない。ヨーロッパはいくつかの存在を脅かす危機に直面していることを私は認識している。これは比喩ではない。それが現実だ。ドイツの連邦憲法裁判所による判決は、単に最も新しい課題であるにすぎない。一度私たちが問題を認識すれば、我々は底力を発揮し難局にうまく対処することができる可能性はある。現在我々が直面している異例の状況に適した、異例の対応を取ればよい。これはまさにコンソル公債に当てはまることである。平時であれば、絶対にコンソル公債などは発行すべきではないが、まさに現在、これは理想的だ。私はコンソル公債の発行というような対策を提案し続けることができる限り、希望を捨てない。
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