フェースブックは暗号通貨Diemのパイロット版を年内に立ち上げる計画——Diemは中央銀行から密かに通貨発行権を奪うトロイの木馬か?
フェースブックが支援する暗号通貨プロジェクト「Diem」は、2021年に同プロジェクトでは初となるステーブルコイン(*)を小規模なパイロット版として立ち上げる計画である——匿名の人物から得た情報として、CNBCが4月20日(火曜)に報じた。
*ステーブルコインとは何か?
ブロックチェーン上で価格が安定した通貨を発行する「ステーブルコイン」と呼ばれる試みが最近になって注目を集めている。ステーブルコインの可能性は、価格が安定した通貨として、店舗等での支払いに使われることだけではない。ステーブルコインはブロックチェーン上に存在するという特性から、ブロックチェーン上の複数のサービスとシームレスに相互連携できるため、将来的にブロックチェーン上のサービスの基軸通貨となる可能性が期待される。
(出典:FinTech Journal)
数年前、フェースブックのマーク・ザッカーバーグ氏は、同社のSNSプラットフォーム上で国境を越えた決済サービスを提供することを目指して、国際的なステーブルコインを立ち上げる「Libra」プロジェクトを表明していた。
しかし、Libraプロジェクトには、様々な不換通貨(円、ドル、ポンドなどの法定通貨)に裏付けられたステーブルコインを発行するという複雑な計画が含まれ、さらにフェースブックはドルに取って代わる新しい国際的な金融システムを作ると発言したことが多くの関係者たちの神経を逆撫でしたため、同プロジェクトはすぐさま規模が縮小される事態となっていた。
Libraプロジェクトの残骸は、後にDiemとしてスピンオフしてブランド再生され、企業によるステーブルコインの支配という、規模を縮小したビジョンに引き継がれることになった。
しかし、このDiemは、約2年前にSNS企業の巨人が鳴り物入りで立ち上げたLibraとは異なり、派手なPRもなければ論争を呼び起こしてもいない。
CNBCはDiemプロジェクトについて次のように報じている:
詳細がまだ公表されていないため匿名を条件に語った人物によると、今回の試験運用は規模が小さく、主に個人消費者間の決済取引に焦点を絞ったものであるという。また、ユーザーが商品を購入するためのオプションも用意される可能性があるとその人物は語った。ただし、開始時期は確定しておらず、そのため時期が変更される可能性もある。
暗号通貨を専門とする情報媒体CoinDeskのチーフ・コンテンツ・オフィサーで、元金融ジャーナリストのマイケル・ケイシー氏は、CNBCに対し、「これ(Diemプロジェクト)は、ある意味レーダーから消えてしまった。これはかなり驚くべきことだ」と述べている。
(太字強調はBonaFidr)
Diemのパイロット・プロジェクトの立ち上げにフェースブックは公式な役割を果たさず、代わりに、Diemの開発を監督するスイスの非営利団体「Diem Association」がこのプロジェクトを監督する。
先に紹介した金融ジャーナリストのマイケル・ケイシー氏は、CNBCへのコメントの中で、Diemプロジェクトがあまりにも話題になっていないことに驚いたと述べ、まるで国際社会から忘れ去られてしまったかのようだと語っている。ケイシー氏は、ウォールストリート・ジャーナル紙での記者時代、暗号通貨の出現を最初に報じた記者の1人。
Diemに対する生ぬるい反応は、その前身のLibraがどれほどの反発を招いたかを考えると驚くべきことである。「(Libraは)反発が本当に強かったという意味で、国際秩序に対する衝撃的な挑戦でした」とケイシー氏は語っている。
Diemは、この1年で何人もの幹部が去っているだけでなく、マスターカードやVISAなどの強力な企業からの支援も失っている(PayPalがLibraからの脱退を表明したことはここで報じた)。しかし、今回のブランド再生をきっかけに、Diemはスイスの金融規制当局と決済ライセンスの取得に向けて協議していると報じられている。これは、Diemがその暗号通貨プロジェクトを軌道に乗せるための重要なステップとなる。
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当然、フェースブックのような企業だけでなく、政府支援の暗号通貨も準備が進められている。デジタル人民元(eRMB)に加えて、欧州中央銀行(ECB)は最近、デジタルユーロに関する公開協議を終えており、今年の夏に判断を下す予定である。また、ボストン連銀は、今年秋に最初の調査結果を発表する予定である。
そして英国の中央銀行にあたるイングランド銀行もまた、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行することを検討していると、フィナンシャルタイムズ(FT)紙が4月19日(月曜)に報じている。ロイター通信も同日、「ビットコインではなく『ブリットコイン』? 英国は新たなデジタル通貨を検討」と報じている。
イングランド銀行は、約1年前、「Central Bank Digital Currencies : opportunities, challenges, and design(中央銀行デジタル通貨:そのチャンス、課題、そして設計)」と題する論文を発表していた。
FT紙は、「(イングランド銀行によるCBDCの)その目的は、通貨ポンドが暗号通貨に対して時代遅れにならないようにすることであり、決済システムを改善することにある」と報じている。しかし法定通貨(不換通貨)が時代とともに栄枯盛衰を繰り返すというのは歴史が証明しており、「通貨が時代遅れにならないようにする」努力は報われないことは目に見えている。
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ステーブルコインは、ビットコインやイーサ(Ether)の代わりとなる、より実用的な暗号通貨と見られている。政府、そして国民から、暗号技術を使って通貨発行の独占権を奪うという戦いにおいては、中央銀行ではなく企業が早期に勝利を収めるのかもしれない。いずれにしてもステーブルコインが今後どのように展開していくかは目が離せない。
しかしフェースブックのDiemには警戒を怠ってはいけない。本サイトでも度々紹介しているトム・ルオンゴ氏は、かつてLibraのことを「トロイのウサギ(一見かわいいトロイの木馬)」と呼んでおり、それはマーク・ザッカーバーグ氏が静かに音もなく通貨発行能力を掌握し、「フェースブック中央銀行」を立ち上げるのを手助けする可能性があると指摘している。
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