「金融の大惨事は一瞬にして起こり得る」【オピニオン】——FRBは金利を急速に引き上げることで金融メルトダウンを引き起こすことをたくらんでいる
サイモン・ブラック筆|2023年3月13日|SovereignMan.com掲載
【タイトル】SVBが債務超過なら、他の全員も債務超過だ
2008年9月14日(日曜日)の午後、金融大手リーマン・ブラザーズの何百人もの従業員が、ニューヨークの745セブンス・アベニューにある同行の本社に入り、自分たちのオフィスや机を片付けていった。
リーマン・ブラザーズは破産宣告を数時間後に控えていた。そして、その翌日に起こった同行の破綻は、大恐慌以来最悪の経済・金融の荒廃を引き起こした。
S&P500種株価指数は約50%下落した。失業率は急上昇した。その後の12ヶ月の間に、100以上の銀行が破綻した。それは完全な大惨事だった。
これらの銀行は、預金者の資金を使って特殊な住宅ローン債権を買い占めていたことが判明した。しかし、この債権は非常にリスクが高いもので、最終的には「有毒証券」あるいは「有毒資産」と呼ばれるようになった。
(訳者注:「有毒(toxic)」という単語には、①有毒な、の他に、②(負債などが)焦げ付いた、不良の、といった意味がある。)
これらの有毒資産は、サブプライム(信用度の低い借り手)である「NINJA」、つまり無収入(No Income)、無職(No Job)、無資産で(no Assets)、支払いを怠った経歴のある借り手に対して提供された、危険で頭金なしの住宅ローンを一つにまとめたものだった。
2006年と2007年に経済が好調だったときには、銀行は有毒資産から記録的な利益を得た。
しかし、2008年に経済状況が悪化し始めると、有毒資産の価値は急落し…そして数十の銀行が一掃され消えた。
さて、私たちはまたここに来てしまった。
それから15年後…新たな金融崩壊を防ぐために数え切れないほどの調査、公聴会、「ストレステスト」規則、そして新しい銀行規制が敷かれたにもかかわらず、私たちはアメリカで2つの大きな銀行、シグネチャー・バンクとシリコンバレー・バンク(SVB)の破綻を目撃した。
時に銀行が倒産することはある。しかし、今のこのような状況は、不気味にも2008年に酷似している…現実はもっと悪い状況だが。それでは説明しよう。
1)米国債は新しい “有毒証券“
SVBは、リーマン・ブラザーズとは違った。リーマン・ブラザーズがそのバランスシート上にあるほとんどをリスクの高い住宅ローン債権に賭けていたのに対し、SVBは驚くほど保守的で控えめなバランスシートだった。
昨年12月31日の年次財務諸表によると、SVBには1730億ドルの顧客預金があったが、融資していたのは「たった」740億ドルしかなかった。
バカバカしい話だが、銀行は通常、預金者のお金のほとんどを貸し出している。例えば、ウェルズ・ファーゴ銀行は最近、1兆3800億ドルの預金を計上したが、そのうちの9,550億ドルが貸し出されている。
つまり、ウェルズ・ファーゴは顧客の資金の70%近くを融資していることになり、それと比べてSVBの「預貸率」は42%程度と、保守的だった。
ポイントは、SVBが破綻したのはリスクの高い「NINJAローン」を大量に作っていたからではない。それとは全く違う。
SVBが破綻したのは、預金者の資金の大半(1,199億ドル)を米国債に預けたからである。
これが、今回のドラマの本当に異常な部分である。
米国債は、世界で最も安全で、最も「リスクのない」資産であるはずだ。しかし、それは完全な真実ではない。なぜなら、国債でさえ価値を失う可能性があるからだ。そして、まさにそれが起こった。
SVBの投資ポートフォリオのほとんどは、10年物国債のような長期国債であった。そして、これらは極めて不安定な状態が続いている。
例えば2020年3月、金利は非常に低く、米財務省は一部の10年物国債を0.08%という低い利回りで販売した。
しかし、その後金利は非常に上昇した。先週の10年債利回りは4%を超えた。この差は非常に大きい。
もしあなたが債券市場にあまり詳しくないなら、最も重要なことの1つを理解して欲しい。債券は、金利が上昇するにつれて価値を失うということだ。そしてそれが、SVBで起きたことだ。
SVBは、金利が今よりももっと低かった時代に長期国債を大量に購入した。同銀行の債券ポートフォリオの平均加重利回りはわずか1.78%だった。
しかし、金利は急速に上昇している。2~3年前に1.78%で買った国債の利回りは、今や3.5~5%…つまり、SVBは大きな損失を抱えていたことを意味する。
彼らはこの事実を隠さなかった。
今年1月19日に発表された同銀行の2022年の年次報告書には、国債の「含み損」が約150億ドル計上されている。(これについては後述。)
それに比べて、SVBの総資本は約160億ドルしかなかった…つまり、150億ドルの含み損は、実質的に彼らを消し去るのに十分だった。
繰り返しになるが、これらの損失は、山積みになったクレイジーなNINJAローンのような融資から生じたものではない。SVBが破綻したのは、新たな有毒証券である米国国債によって何十億ドルも失ってしまったからだ。
2) SVBが債務超過なら、他の全員も債務超過だ…FRBを含めて
本当に面白いのはここからだ。なぜなら、もしSVBが国債のポートフォリオにおける損失で破綻したなら、他のほとんどすべての機関も危険にさらされていることになるからだ。
例えば、私たちが昔からお気に入りのウェルズ・ファーゴ銀行は、最近、同銀行の債券ポートフォリオの含み損として500億ドルを報告した。これは同銀行の資本で非常に大きな割合を占める。しかも、それにはデリバティブにおける潜在的な損失は含まれていない。
銀行、証券会社、大企業、州政府、地方政府、外国機関など、(米国の)長期国債を購入した人は皆、今、莫大な損失を抱えている。
FDIC(連邦預金保険公社、つまり米国の主要な銀行監督機関)は、全米の銀行における含み損を約6500億ドルと推定している。
6500億ドルの含み損は、2008年に米国で発生したサブプライムの損失総額に匹敵する規模であり、もし金利が上昇し続ければ、損失は拡大し続けることになる。
このことについて皮肉なこと(そして少し滑稽なこと)は、FDICは銀行預金を保証するはずの機関だということだ。
実際、FDICは、預金保険基金(Deposit Insurance Fund=DIF)と呼ばれる特別な基金を管理し、今はないSVBを含む全米の銀行の顧客預金を保証している。
しかし、現在のDIFの基金残高は1280億ドル程度にしか過ぎない…それに対して、銀行システムにおける含み損は6500億ドルである(そしてそれはさらに増えている)。
本当にクレイジーなことはこれだ——預金保険基金(DIF)はその1280億ドルをどこに投資しているのだろうか?米国国債だ!つまり、FDICでさえも、破綻した銀行を救済するためであるはずの保険基金で、含み損を出し苦しんでいるのだ。
こんなことは作り話として作れるものじゃない。馬鹿げている!
特に注目したい1つの銀行がある。そこは債券ポートフォリオで信じられないくらい大きな損失にさらされている銀行だ。
事実、この銀行は昨年、420億ドルの資本金に対して3300億ドル以上の「含み損」を計上し、完全に債務超過に陥っている。
私が話をしているのは、もちろん、連邦準備銀行(FRB)のことだ・・・世界で最も重要な中央銀行だ。そこは、絶望的なまでに債務超過に陥っており、SVBよりもはるかに破綻している。
何が間違っていたのだろう?
3)「専門家」たちはこうなることを予見していたはず
2008年の金融危機以来、議員や銀行規制当局は、銀行危機の再発を防止するために、新しい規則のオンパレードを延々と繰り広げてきた。
その中でも特に笑わせてくれたものの一つは、銀行が「ストレステスト」、つまり各銀行がマクロ経済状況における一定の変動に耐えられるかどうかを確認するための模擬演習シナリオに合格しなければならないという新しい規則だ。
SVBはストレステストに見事に合格した。同銀行はまた、FDICの審査、財務監査、そして州規制当局の監査もパスした。ウォール街の数多くのアナリストたちもまたSVBを追いかけ、その多くが財務諸表を分析した上で力強く「BUY(買い)」の格付けを与えていた。
しかし、これがいかに不条理であったかを最もよく物語っていたのは、1月下旬のSVBの株価であった。
SVBは2023年1月19日の市場取引終了後に、2022年の年次財務報告書を発表した。これは、銀行の資本を事実上消し去る150億ドルの含み損を計上したのと同じ決算報告書だ。
決算発表の前日、SVB株の終値は250.04ドルだった。決算発表の翌日、株価は291.44ドルで引けた。
つまり、SVBの経営陣が銀行の資本が事実上ゼロになったことを公表したにもかかわらず、ウォール街の「専門家」である投資家たちは興奮して株を買い、株価を16%も上昇させたのだ。株価はその後も高騰を続け、数日後の2月1日には333.50ドルの高値をつけた。
要約すると、すべての警告サインはあったのだ。しかし、専門家たちはまたもや失敗した。FDICはSVBの惨状を目の当たりにしながら、何もしなかった。FRBも何もしなかった。投資家たちは歓喜し、株を買いあさった。
そして、これは次のポイントにつながる――
4)破綻は一瞬にして起こり得る。
1週間前、まだ何も問題ではなかった。それが、数日のうちにSVBの株価が急落し、預金者がお金を引き揚げ、銀行が破綻した。あっという間だ。
2008年にリーマン・ブラザーズにも同じことが起こった。この数年、私たちは、一瞬にして世界が変わってしまうという事例を、次々と目の当たりにしてきた。
2020年3月、少なくとも北米ではまだごく普通だったと私たち全員が記憶している。しかし、数日のうちに、人々は家に閉じ込められ、私たちが知っている生活は根本的に変わってしまった。
5)これはずっと起こり続けるだろう
長年の読者たちであればこれを聞いても驚かないだろう――私は何年も前から、銀行の破綻や金融システムの不安定化など、このような話題について書いてきた。
昨年末、私はポッドキャストを収録し、いかにFRBが金利を急速に引き上げることで金融メルトダウンを引き起こすことをたくらんでいるか、そして板挟みとなって二者択一を迫られる、つまりインフレ率の上昇か、金融の大惨事(financial catastrophe)か、そのどちらかの選択を迫られることになるだろうと説明した。
そして今、金融の大惨事だ。しかし、それはまだ始まったばかりである。2008年のリーマン・ブラザーズのように、SVBは氷山の一角にしか過ぎない。銀行の間だけでなく、マネーマーケット・ファンド(公社債投資信託)、保険会社、そして一般企業にも犠牲が出るだろう。
海外の銀行や機関投資家も米国債の損失を被っている…そしてそれは、米ドルの基軸通貨としての地位に悪影響を及ぼす。
これを考えてみて欲しい――1)米国の政府債務はとんでもなく高く積み上がっている。2)連邦政府は、どんな問題も解決できない愚か者の集団のように見える。3)そしてインフレはひどいありさまだ。
これらに加えて、米国債を購入した外国人も厳しい損失を被っているのだ。
なぜこんな狂気の沙汰を続けたいと思う人がいるだろうか?外国人はすでに米国とドルに対する信頼を大きく失っている・・・そして、彼らが保有する(米国)国債からの損失は、その傾向を加速させかねない。
この問題は、チャイナが今、国際的な力を発揮し、最近では中東でイランとサウジアラビアの和解を実現させたことで特に注目されている。そして、チャイナは自国の通貨をドルに代わるものとして積極的に売り込み始めている。
しかし、管理者たちは誰もこのことを理解していないようだ。
「エア握手」をする男(バイデンはスピーチの後、誰もいない壇上で「エア握手」をしたことが昨年報じられた)は、今朝、銀行システムは安全だと主張した。みなさん、ここには見るべきものは何もない。
FRB――この悲しき道化芝居の首謀者――も、何も理解していないようだ。
実際、FRBの指導部は先週ずっと、金利を上げ続けるつもりだと主張していた。
先週の銀行危機の後でも、FRBはまだわかっていないのだろう。FRBは、経済で実際に起きていることにまったく無頓着なように見える。そして3月22日にまた会合が開かれれば、さらに金利が引き上げられる可能性がある(そしてさらに含み損を誘発する)。
つまり、この劇的事件(ドラマ)はまだ全然終わっていない。
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