恒大集団は<ねずみ講>を行っていたと同社幹部が認める——今週月曜には2件の支払い不履行が発生 「ハードランディング」の確率は30%
チャイナ恒大集団の理財商品部門の幹部は、同社が個人投資家や社員を相手に「ねずみ講」を行なっていたことを認め、「多くの人々が金融詐欺で逮捕される可能性がある」と語った。フィナンシャルタイムズ(FT)紙が9月21日(火曜)に報じた。
FT紙は次のように伝えている:
恒大集団の1人のファイナンシャル・アドバイザーは、地元メディアとのインタビューで、この(理財)商品は「サプライチェーン・ファイナンス」の一種であると述べた。・・・
また、Hubei Gangdun社について聞かれた恒大集団ウェルスマネジメント(理財商品)部門の幹部の一人は、それは単なるダミー会社だと答えた。
「理財商品からの収益は、親会社が直面している様々な資金不足を解消するために使用されている。実際にお金がどこに行ったかを徹底的に調べる必要はない」とこの幹部は語っている。
「理財商品の収益の一部は過去の商品の返済に充てられたが、売上が激減したため、ビジネスモデルの継続が困難になった」と彼は認めた。
「投資家に返済が行われなければ、多くの人が・・・金融詐欺で逮捕されるかもしれない。 私たちの商品は万人向きのものではなかった。しかし、私たちの草の根の販売員たちはそのことを考えずに、自分の販売目標を達成するためにすべての人をターゲットにしてしまった」と彼は語った。
(太字強調はBonaFidr)
つまり、恒大集団はねずみ講(ポンジー・スキーム)を使った「自転車操業」を行なっていた。そして同社が販売した理財商品は紙くずになりかけている。
恒大集団はその資金源として、最高12%という高利回りを約束して個人投資家を募り、「何万人もの投資家が理財商品を購入した」とロイター通信は9月21日(火曜)に伝えている。恒大集団は投資家を勧誘するために、例えば昨年のクリスマスのプロモーション期間中は、300万元(約5072万円)以上の理財商品を購入した投資家たちに、ダイソンの空気清浄機やグッチのバッグを贈呈していたという。
2016年にピア・ツー・ピア(P2P)のオンライン・レンディング・プラットフォームとして立ち上げられた恒大財富(恒大ウェルス)は、もともと恒大集団の不動産プロジェクトの資金調達に使われていた。恒大財富(恒大ウェルス)のセールス・マネージャーによると、同社の従業員やその家族、友人、恒大集団の不動産のオーナーなど8万人以上が理財商品を購入し、過去5年間でその金額は1,000億元(約1兆6900億円)以上に達していたという。これらの投資のうち、約400億元(約6763億円)がまだ未払いで、今後も返済されない可能性が高いという。
今週初め、恒大集団は、6人の上級幹部が「厳しい処罰」を受けると発表した。個人投資家には期限内の資金返済が行われないと連絡が行われた後に、彼らは、自ら購入していた投資商品だけは早期償還することを確保していた。
さらに、恒大集団が理財商品の約400億元(約6763億円)をバランスシートの負債に含めていたかどうかということが大きな問題となっている。FT紙は、その答えは「まだはっきりしていない」としている。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスのシニア・クレジット・アナリストであるセドリック・ライ氏は次のように語っている:
その一部は負債総額に含まれているはずだと我々は期待していますが・・・しかし同社の財務諸表で詳細な情報開示が行われていないため、確認することが困難です。
GMTリサーチ社のナイジェル・スティーブンソン氏もまた、恒大集団が理財商品をどのように計上しているかが不明であることに同意している。さらに同氏は次のように語っている:
いったん財務状況が明らかになれば、さらに多くの戦慄とさせる問題が明らかになる可能性があります。
* * *
ソシエテ・ジェネラルSAのエコノミストたちは、恒大集団のデフォルト危機が「ハードランディング」する確率を30%と見積もっている。しかし、バークレイズ銀行は、恒大集団をリーマン・ブラザーズの危機と比較することに懐疑的な見方をしていることをFT紙が次のように紹介している:
「チャイナの状況は大きく異なる。不動産セクターが金融システムへリンクしていることは、大手投資銀行ほどの規模ではないだけでなく、負債資本市場が唯一の、あるいは主要な資金調達手段ではない。
この国は、大部分が指揮統制型の経済である。極端な話、チャイナのすべての不動産会社に対して資本市場が閉鎖されたとしても(これは現在は発生しておらず、現時点ではテールリスクに過ぎない)、規制当局は銀行にそのような企業への融資を指示し、企業を破綻させずに維持させ、必要に応じて延長された「負債を埋め合わせする」時間を確保することができる。
経済の戦略的に重要な部分で広範な貸し手による取引停止が発生する唯一の状況は、政策上のミスがあった場合である。それは、システミックな影響にかかわらず、結果がどうなろうとも当局が(おそらく市場に規律を課すために)行動した場合である。しかし、我々はその可能性は非常に低いと考えている。リーマン危機からの教訓は、モラルハザードはシステミック・リスクの二の次にされるべきだということだ。
バークレイズ銀行の見解はもっともらしく聞こえるが、インドの商業銀行、コタク・マヒンドラ銀行の創業者兼CEOであり、世界で最も富豪の銀行家の一人であるウダイ・コタク氏は、これに反対する意見を述べている。彼は21日(火曜)に投稿したツイートで、恒大集団は「チャイナのリーマン・モーメントのようだ」と指摘している。
【訳】恒大集団はチャイナのリーマン・モーメントのようだ。(インドのインフラ開発・投資会社)Infrastructure Leasing & Financial Services(IL&FS)社を思い出す。インド政府は迅速に行動した。金融市場に落ち着きを与えた。政府が任命した委員会は、IL&FS社の回収率を61%と見積もっている。チャイナの恒大集団の社債は、額面1ドルあたり~25セントで取引されている。
米国ニューヨーク時間で21日(火曜)の朝、恒大集団が20日(月曜)に少なくとも2つの銀行への支払い不履行を起こしたというニュースが流れたが、市場はすでに折り込み済みでありそれほど驚きを持って受け取られていない。市場の理解は、恒大集団が流動性危機に陥っており、約33兆円以上の膨大な負債の支払いができなくなっているということである。
恒大集団は、今週23日(木曜)にも支払い不履行を起こす見込み。
20日(月曜)に支払われなかった分については、現地時間の火曜日遅くになっても、恒大集団は支払いを行っていないと、匿名の情報源とされる複数の人物たちがブルームバーグ通信に語っている。
現時点で、貸し手である銀行が正式に恒大集団の債務不履行を宣言するかどうかは不明。一部の銀行は、次のステップを決定する前に、恒大集団がローン延長計画を提案するのを待っている。あるいは北京にある中央政府が救済に乗り出すかもしれないが、今回はそうはならないだろうとチャイナの複数の政府高官が示唆している。
恒大集団がこれから辿る運命に世界の注目が集まっている一方で、「チャイナ版リーマン・ブラザーズ」と呼ばれる状況にまでどうやって恒大集団が至り、世界的なシステミック・リスクにまで成長したのかについて、財新が洞察に満ちた記事「いかにして恒大集団は『チャイナのリーマン・ブラザーズ』になる可能性があるのか」(英語有料記事)を掲載している。同記事は、恒大集団の中身が実は巨大なシャドーバンキングのブラックボックスであり、ついにその時限装置が終焉を迎えたこと、そしてチャイナ政府はどんなに困難であっても恒大集団を救済する必要がある理由について鋭い分析を行なっている。
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