ヘッジファンドCIOが見た日本:日本のマイナス金利政策、MMT理論、米中対立、人類の運命について
エリック・ピーターズ氏は、アメリカの投資アドバイザリー企業One River Asset ManagementでCIO(Chief Investment Officer)を務める。彼が、マクロ的アプローチで投資を行なっているとあるヘッジファンドのCIO(A氏)と意見交換した内容を記事にしている。
その中で、日本のマイナス金利や、MMT理論、米中対立、そして人類の行く末について語っており、特に日本のマイナス金利政策に批判的な視点は新鮮でもあり貴重だ。
以下にピーターズ氏が寄稿した内容を抄訳して紹介する:
BonaFidrをフォロー私たちは、トレード、その他のテーマ、マクロな視点について意見を交わした。そしてA氏は次のように語り始めた。
「今、所得の再配分の時が近づいている。これまでに起きたことは、資産を持っている人たちにとって得となることだったが、これから先に起こることは多くの点でそれとは真逆だ。
投資家は、自社株買い、高利益幅(ハイ・プロフィット・マージン)、安い税金、そして技術に対する緩い規制が元となった上昇トレンドの波に乗っていた」。
A氏は4本の指を立てながらさらにこう説明した。
「しかしこの先に起こることを考える必要がある」と言うと、彼はその4本の指を逆の手の内側にしまい込んだ。
貧富の格差は過去最大を記録し、それが世界中で政治的な反発を生み出していると私は語った。そしてこれは財政政策がほぼその限界に到達したタイミングで起こった。これら二つの出来事は、明らかに関係している。そのため、わずかな利回りの源泉を求めて投資家たちは先を争い、それにつられて市場は上昇しおり、何か問題が起きるまで「高リスク低リターン」の状況を受け入れている。しかし、表面的には分からない深淵で変化が起きていることが明らかとなった。私たちはそれをMMT(現代貨幣理論)と呼ぶのかどうかは重要ではないが、財政上の大規模な反発が起きている。
A氏は、最近、日本を訪問した際に様々な有名人(政治家、日銀関係者、官僚?)らと面会したと語り、次のように話し始めた:
「私は東京をよく訪問する。私は、彼らに対して、もっと真剣に積極的になるよう何年も説得しようとしてきた。これほど多くの優秀な科学者がいる国で、政府がマイナス0.2%という低金利で20年間も借金できるのに、なぜ国債を発行して基礎科学に大規模投資を行わないのか?このような投資からは、確実にリターンが得られる。辺鄙な場所に橋を建設するのとは違う。しかし私が連絡をとっている日本の関係者たちは、彼らが持つ正統派の考え方とは異なることを理解することができないように見えた」。
すでに確立してしまった経済や政治における利害のせいで、経済はどのように機能しているのかという誤った通念を作り上げてしまっている、と私はA氏に返した。凝り固まった利害関係により、人々は変化を恐れ、現状を維持するために可能なあらゆることを行う。彼らは、私たちが最近、正統派経済と呼ぶものを構築した。しかし、それが正しいならば、量的緩和は大規模なインフレを引き起こしていたはずである。日本におけるGDPの250%にものぼる国の借金は、経済崩壊を誘発していたはずである。しかし、それは起きていない。なぜなら、通念というのは真実ではないからだ。正統派に対する信仰が揺らぎ始めると、確立された利害関係は崩れ、本当の変化がやってくる。
「富の再配分はいつ始まり、それが市場で明らかになるのはいつか?それが問題だ」とA氏は語る。
さらにA氏は次のように続ける:
「それが始まれば、大きなトレンドが生まれ、それに乗ってレバレッジをかけることができる。それは段階的に起きる。それまで、財政刺激策を受けて利回りが急騰する際に、おそらくドイツ国債で取引可能な動きが生まれる。しかしそれは長続きしない。私たちが危機に到達するまで、マイナス金利はますます下がることになる。それまで、難しい取引になる。なぜなら、全て環境は整っていながら、しかし投資家が抜本的にポートフォリオを組み替えることになるような方向に進んでいないためである」。
ボラティリティーを買い始める必要があると私は答えた。人々は金利ボラティリティに注意を払っているが、中央銀行関係者たちは金利が上昇することを恐れている。彼らは、ここまで巨額に膨れ上がった負債から抜け出すために、10年間かそれ以上、実質金利をマイナスにすることを実行しようとしている。これが意味することは、ボラティリティがどこか別の場所で発生するということだ。FXの予想変動率(implied volatility)は、過去最低レベルとなっている。中央銀行が自国の為替レートを守るために金利を上げることを恐れている世界では、通貨にボラティリティが最初に現れ、それから株式におけるボラティリティが急上昇することになる。そこに、最大の構造的な空売りが仕掛けられる。
A氏はさらに次の話題についても語った:
「衝突についてどのように考えればいいかまだ分からない。東洋と西洋が平和に共存できる世界について想像できる。しかし、権力を持った人々の中には、アメリカが軍事的な優越性を維持し、中国を抑え込んでいられる期間は終わりを迎えようとしていると考えている人たちがいる。
それは、ある種の物理的な衝突を導く世界観だ。しかし、アメリカは中国を誤解している。中国は今は強いが、時間が経過するにつれてもろさを露呈する。彼らの監視国家は、すでに強固に確立されており、ますます強力に、そしてより洗練されたものになる。しかし、それを行うには彼らの社会や経済のダイナミズムに対して犠牲が発生する。彼らはそれに異議を唱え粉砕できると考えるかもしれないが、彼らは内側からの崩壊と分断に自らをさらすことになる。
ジャック・マーのような人物は何十億ドルという資産を築くことができるが、国家がそれを全て没収する。それが中国の掟だ。彼が海外資産を買い漁り始めた際、その(資産没収の)プロセスが始まったのだと誰もが知った。これこそが、彼らの経済的強さの土台を崩すことになるものの一例だ」。
本当に期限を迎えようとしていると私が思うのは、彼の考えとは違うと私は言った。処理スピード、AI、武器、生産拡大において進歩するということは、圧倒的な軍事攻撃に反応する時間がほとんどなくなるという瞬間に、私たちが近づきつつあることを意味している。つまり、私たちの国防システムを機械に委ねる必要がある瞬間が近づきつつある。私たちがその瞬間に近づくにつれて、特定の国家は、先制攻撃を行うことが最も合理的な行動だと結論づけることが十分想像できる。
つまり、皮肉なことに、技術こそが、私たちが平和に共存できる時間を終わらせようとしている。私たちは、壊滅的状況を避けるためにいかに相互に交流することができるかについて、根底から見直すことに迫られている。そして私が頻繁に思いを巡らせていることは、私たちが宇宙で他の生命体が存在するサインをまだ発見できていない理由は、知的生命体が進化することができるという特徴に、自滅を引き起こす「種」が含まれているからではないかと。