シリコンバレーの大手IT企業は米政府にブラックリスト化されたチャイナの監視企業にいまだ密かにサービス提供していることが判明
今月初め、アルファベット(グーグルの親会社)の元会長であるエリック・シュミット氏が金融系ケーブルテレビCNBCに出演し、チャイナからの「デカップリング」を進めようとするタカ派の政治家たちを牽制する発言を行った。この発言は、シリコンバレーのエリート層がいかに中共政府と長年、利益を共有する関係を構築してきたかをあらわにする象徴的な出来事となっている。
このとき、シュミット氏は次のように発言していた:
(一度デカップリングをすると)彼ら(チャイナ)は戻ってこない。そしてそれは我々に損害をもたらすことになる。我々は互いにコミュニケーションを取る際に、共通の情報プラットフォームがあれば、我々はグローバルにより強力になれる・・・我々は二度と親友にはなれなくなる。しかし我々は共通の問題について協力することができる。
ビジネス界では、互いに信用していない企業同士が協力関係にある事例が多くある・・・我々は、なぜチャイナとそういう関係になれないのだろうか?
シュミット氏がこの発言を行っているインタビュー動画(開始後13分あたりからチャイナに関するコメント):
そして先週金曜、米国政府がチャイナ国営の監視システムに関与しているとして、33社のチャイナ企業をブラックリストに追加する計画であると発表した。それから約半日後の5月23日(土曜)早朝、CNBCはアルファベット、マイクロソフト、そしてアマゾンが、すでに昨年このブラックリストに掲載されているチャイナの企業に依然としてITサービスを提供していることが判明したと報じた。これらトランプ大統領によってブラックリスト化されたチャイナ企業は、その監視システムが、中共政府が新疆ウイグル自治区で150万人ものウイグル人を強制収容している施設で使われていると米政府は発表している。
CNBCは次のように報じている:
VPNサービスをレビューしているサイトで、プライバシーに関する調査も行っているサイトTop10VPNは、報告書を発表し、その中で米国の大手IT企業が「これらチャイナ企業のウェブサイトを支援する必要不可欠なウェブサービス」を提供していると記している。
CNBCは、ブラックリストに掲載されているチャイナの監視企業にそのようなサービスを提供している企業として、この報告書で名前が挙がっている米国企業に連絡を取った。しかしコメントをすぐに返信した企業は一社もなかった。
10月、チャイナの監視用AI企業の最大手数社が、米国のエンティティー・リストに掲載された。こうした企業が米国の技術にアクセスすることを制限する目的で行われた。これと同じブラックリストに、ファーウェイも名前を連ねている。
米国政府は、チャイナの新疆地区で「ウイグル人、カザフ人、そしてその他のイスラム教少数グループに対して、チャイナが抑圧キャンペーン、大規模な恣意的拘束、そして高度な技術による監視を行っていることに対して、これら企業・組織が関わっており、彼らが人権侵害と虐待に関与している」と非難している。
同地区は、約150万人と見積もられているイスラム教徒を拘束し「再教育」するキャンプ施設が作られているとしてニュースで大々的に報じられている。彼らの多くは、チャイナが過激主義者を取り締まるために制定したという法律を破った容疑で拘束されている。アムネスティー・インターナショナルは、この法律は「非常に抑圧的で差別的」と説明している。
しかし不思議なのは、こうしたチャイナで人権侵害を行っている監視会社に、アメリカのIT企業が非常にベーシックなウェブサイトやメールのホスティング・サービスを提供しているということである。これらチャイナの企業は、高度技術とは呼べないこうしたウェブサービスを、なぜこれらアメリカのIT企業に頼る必要があるのかという疑問が残る。
Top10VPNによると、米国のIT企業が提供しているサービスには、チャイナの監視企業のウェブサイトおよびメールへのホスティング・サービスから認証手段まで含まれている。
サイバーセキュリティーを専門にするTop10VPNは、この報告書をCNBCに提供した。同社は、これら「必要不可欠な」サービスを提供することで、米国企業はチャイナの顧客企業が「高度に浸潤性がある監視製品」を開発することを支援していると語っている。
さらにCNBCは次のように報じている:
「これら物議を呼んでいる(チャイナの)企業に対して、必要不可欠なウェブサービスを提供することで、米国企業は高度に浸潤性がある(インベーシブな)監視製品を拡散することの片棒を担いでいる。これら監視製品は、世界中で人権をむしばむ潜在性を持っている」とTop10VPNの調査部門責任者であるサイモン・ミリアーノ氏は同報告書の中で記している。
すでに名前が上がっている米国の大手IT企業以外にも、数多くの米国の中小企業も報告書の中で名前が上がっている。Top10VPNは、これらチャイナの監視企業のサイトとの間でやりとりされる通信データを分析するなど、複数の手法を組み合わせて分析しており、その結果をこの報告書としてまとめている。
Top10VPNは、アマゾンとグーグルが、ブラックリストに掲載されているダーファ(Dahua)とハイクビジョン(HIKVISION)という2社のチャイナ企業にウェブサービスを提供していると指摘している。一方、マイクロソフトが提供するサービスを、センスタイム(SenseTime)とメグビー(Megvii)が利用していると報告している。この2社は、チャイナの2大AIスタートアップ企業である。
これ以外にも米テクノロジー企業の多くの名前が挙げられている。その中にはウェブ認証や暗号化企業であるDigicert、Lets Encrypt、Entrust、Geo Trustなどが含まれている。ドメイン名のホスティング企業であるGoDaddyもこのリストに載っているほか、現在ではNortonLifeLockとして知られるサイバー・セキュリティー企業のシマンテックも掲載されている。インターネットの負荷分散ネットワークであるStackpathも名前が挙げられている。
ツイッターとフェースブックも、ハイクビジョンに負荷分散ネットワークのサービス提供を行っている企業として名前が挙がっている。
CNBCは、この報告書に名前が挙がっている米国企業全社に対してコメントを求め連絡を取った。シマンテックはコメントすることを拒否した。残る企業からCNBCは回答を得られなかった。
チャイナの監視企業は、世界の2大経済大国の間で高まる緊張に巻き込まれている。トランプ政権は、チャイナ企業に対する(制裁)キャンペーンを実行しており、ファーウェイがその中で最も注目を浴びる標的となっている。米政権は、これらチャイナの企業がアメリカのテクノロジーにアクセスできないよう排斥することを目標にしている。
しかしTop10VPNのミリアーノ氏は、同社の報告書で依然として米中企業の間につながりがあることが示されていると語っている。
「トランプ政権が米中のテクノロジー・セクターのデカップリングを行おうと努力しているにもかかわらず、より用心深い方法で(チャイナ企業の活動に)米国企業のプレゼンスが見て取れるということは、引き続き米中企業が協力関係にあることを示している」とミリアーノ氏は語っている。
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