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中共政府は人民元を米ドルから完全にデカップリングするシナリオを検討しはじめた?|香港の銀行は最悪の事態に向けて準備を開始

中共政府は人民元を米ドルから完全にデカップリングするシナリオを検討しはじめた?|香港の銀行は最悪の事態に向けて準備を開始

第1弾の米中通商交渉に合意するチャイナ代表の劉鶴副首相とトランプ大統領。撮影日:2020年1月15日。 (Photo via REUTERS/Kevin Lamarque)

今週火曜、トランプ大統領がホワイトハウスのローズガーデンで行ったスピーチに世界の注目が集まった。その中で、トランプ大統領はチャイナを直接の標的にした新たな制裁法案「香港自治法案(Hong Kong Autonomy Act)」に署名することを明らかにした。この法案は、香港の自治に介入していることが判明した中共政府関係者たちについて、彼らに協力している銀行を制裁するというもの。

■ 最悪の事態に向けて準備を始めたチャイナの銀行

中国銀行や中國工商銀行などチャイナのメガ・バンクは、米ドルからデカップリングされる、もしくは米ドルの決済システム(SWIFT)から締め出されるという最悪の事態を検討し始めている。さらに恐怖に駆られた顧客たちによりこれら銀行の香港支店で取り付け騒ぎが起き米ドル不足に陥ってしまうという事態についても準備を始めているとロイター通信が報じている

さらに、香港で営業を行っている欧米の銀行は、自行の顧客に対して「緊急監査」を実施しているとファイナンシャル・タイムズ紙が報じている。その目的は、香港国安法を導入することに関与したとして、米国の制裁対象になる可能性のあるチャイナ政府および香港政府の関係者や法人を特定することにある。少なくとも2行の国際的メガ・バンクが、取引先の「緊急監査」を行っているという。

■ チャイナの元高官も最悪の事態に準備するよう提唱

米国政府による強力な対中金融制裁「香港自治法案」に対して、チャイナ側からの最も重要な反応が、現職の政府関係者からではなく元政府高官から行われている。

中国共産党中央委員会対外連絡部の元副部長である周力(ジョウ・リ、65歳)氏は、今月初め、北京にあるシンクタンクの中国人民大学重阳金融研究院(Chongyang Institute for Financial Studies)から論説記事を発表した。周力氏は、中国共産党の外交の主流派による一般的な発言や、既存の枠にとらわれずに思考する重鎮として、彼の発言は常に注目されている。

米中間でますます高まる緊張関係は、南シナ海での軍事衝突にまで発展する勢いである。こうした中、周力氏は、今月初め、最終的に人民元を米ドルからデカップリングするべきという論説を発表した。これはチャイナ共産党内部にある過激で極端な思想が表面化したものであると多くの人たちはみなしている。

これは、米中間の緊張関係が途中で緩和することなく「全面対決」に至る場合のシナリオである。すでにこれまで、米中間では制裁の応酬が繰り返されていることからも、周力氏が提唱する米ドルからのデカップリングは、まさに中共政府が最後に引き金を引く「最終兵器」となる可能性がある。しかしその甚大な影響を考えると、チャイナはこの引き金を嫌々引くことになることは間違いない。

しかし、周力氏は、今こそチャイナ政府は「米ドル覇権から自らを分離し、人民元を米ドルから徐々にデカップリングする」ことを始めるべきであると主張している。周力氏は、「米ドルは、『我々の喉頸を押さえる』大きなリスク問題になりうる」と論じている。

この周力氏の論説記事は、チャイナの国内メディアで広く報じられた。さらにこの論説記事は、「サプライチェーンは分断され、米中のデカップリングが行われ、そして世界は米ドルと人民元の経済圏に分離する」と予想している。このことは、チャイナを世界経済のスーパーパワーに成長させるという習近平の野望に反して、チャイナはかつてないほど孤立化させられることになるとも予想している。

周力氏はさらに次のように記している:

金融セクターにおける米ドルの独占的地位を利用することで、米国はチャイナのさらに発展に対してますます厳しい脅威を突きつけることになるだろう。

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)紙は、周力氏の論説記事の要旨を次のように報じている

米国は、その海外政策に関して「遠くまで影響力の及ぶ権威」を拡張させるために、ドルが支配するSWIFT国際銀行間決済システムの力を利用してきた。その例には、ロシアやイランへの制裁が含まれると周力氏は記している。エネルギー供給業者に制裁を加えることは、チャイナのエネルギー安全保障を危機にさらすと周力氏は警告する。・・・

チャイナは、人民元の国際化を加速させ、人民元での国家間決済およびクリアリング協定での流通量を高め、より多くの国々で地元での通貨決済機能を確立し、そして世界の工業サプライチェーンにおける人民元の利用を最大化するような状況を生み出さなければいけないと周力氏は語っている。

周力氏が想定しているこうした最悪のシナリオでの米中間のデカップリングは、金融セクターのみならず他の分野でもデカップリングが行われてこそ可能になる。

SCMP紙はさらに次のように報じている:

コロナウイルスによって海外の需要が引き続き打撃を受け、グローバル・サプライ・チェーンが混乱していることを考えると、チャイナ政府は、チャイナ中心主義の地域的な工業サプライチェーンを構築するためにこのチャンスを利用するべきである(と周力氏は記している)。・・・

さらに、周力氏は、チャイナは世界的規模の食糧危機、そして今回のパンデミック中に国際的なテロが再発することに準備すべきであると警告している。

周力氏はその論説記事の中でチャイナが準備しなければいけない問題として、以下の6項目を提示しているとNikkei Asian Reviewは報じている

  1. 悪化の一途を辿る米中関係と、両国の全面衝突
  2. 外需の縮小とサプライチェーンの混乱
  3. 新型コロナウイルス・パンデミックとの長期的な共存が新常態(ニューノーマル)すること
  4. 米ドル覇権を離脱し、人民元を米ドルから徐々にデカップリングすること
  5. 世界的規模の食糧危機の突然の発生
  6. 国際的なテロの再発

ここまで最悪の事態を想定して米ドルからの完全なデカップリングとドル経済圏からの孤立化を提唱する発言は、現時点ではまだ中共政府の公式見解ではない。しかし今後、米中が全面対決することになれば、チャイナが進む一つの方向性を予言している論説記事と言える。

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