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オールドメディアが伝えない海外のニュース

中国政府の代弁をするニューヨークタイムズ紙

昨年12月7日、イギリスのガーディアン紙がスクープ記事を発表した。記事のタイトルは、「中国による大胆な世界プロパガンダ・キャンペーンの内幕(“Inside China’s audacious global propaganda campaign“)」。この記事の中で、アメリカではニューヨークタイムズやワシントンポスト、ロサンゼルス・タイムズなどの大手新聞社、そして日本では毎日新聞などが名指しされ、これら大手新聞社は中国政府から資金を受け取り、親中のプロパガンダ記事を掲載しているメディアとして批判されている。

しかし、アメリカでも日本でも、このスクープ記事をオールド・メディアは取り上げない。大手メディアにとって不都合なニュースであるため、「報道しない自由」を選択することを決め込んでいるようだ。

このガーディアンの記事の冒頭には次の文章が掲載されている:

Beijing is buying up media outlets and training scores of foreign journalists to ‘tell China’s story well’ – as part of a worldwide propaganda campaign of astonishing scope and ambition. 

(訳)中国政府はメディア機関を買収し、「中国の言い分をうまく伝えるように」多数の外国人ジャーナリストを養成している。これは非常に驚くべき規模と野望の、世界的なプロパガンダ・キャンペーンの一部である。

これまで、中国政府はメディア戦略に関しては「防衛」を重視し、国内の言論統制に重きを置いていた。しかし、この10年程で中国のメディア戦略は大きく転換し、より洗練された戦略で西欧諸国の視聴者をターゲットにするようになっているとガーディアンは指摘している。

中国政府はとにかく大量の資金を諸外国のメディアに投入し、世界の情報環境を再構築しようとしているようだ。中国の資金は、日本を含めた西欧諸国のメディアで、(1)PR記事、(2)スポンサー付きの報道記事、(3)極端に中国政府の立場に立ち事実を粉飾して書かれた記事に支払われている。中国国内では依然として言論統制が厳しいが、西欧諸国では言論の自由が重要な価値観として保証されており、中国政府は西欧社会のこの「弱み」につけこんでいる。

西欧諸国で権威あるメディアを利用して中国寄りの記事を配信することを、中国国営ラジオ放送局CRIの社長は「大海原に出るための借り船戦略」と呼んでいる。

この「借り船戦略」の例として、中国政府が経営する国営の英字新聞チャイナデイリー(China Daily)は、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、UKテレグラフのような大手新聞社(少なくとも30社)の紙面において「チャイナウォッチ(China Watch)」と呼ばれる4ページまたは8ページの<折り込み広告>を、多くて月に1度、掲載する契約を締結している。

ガーディアン記事掲載時の例では、「チベットが成し遂げた40年間の輝かしい成功」や、「習近平、開放政策を発表」、「習近平、共産党党員を賞賛」というような記事が<折り込み広告>として掲載されている。<折り込み広告>という体裁をとっているが、一見、普通の報道記事とは見分けがつかないため、読者は各新聞の報道記事と勘違いして読んでいる可能性が高いとガーディアンの記者は指摘している。

以下の地図は、ガーディアンの記事に掲載されたもので、中国政府から資金を受け取り親中記事を掲載している各国の新聞社とその発行部数を示したもの。数字は、各新聞社の公称発行部数を示している。日本の毎日新聞が660万部と最大に見えるが、毎日新聞は「押し紙」が訴訟問題になっているように、実際の発行部数はこれよりも少ない。

 

「中国の言い分をうまく伝える」: 世界に広がる親中の新聞社

「中国の言い分をうまく伝える」: 世界に広がる親中の新聞社

 

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以下では、より具体的に、中国マネーに報道が歪められている事例を紹介しよう。

中国国内の人権問題は以前から指摘されており、特にチベット問題は比較的以前から西欧社会にも知られている。しかし最近になって中国国内のウィグル族に対する迫害が深刻であることが明るみに出るようになてきた。

無実のウィグル族の人たち(ドイツの学者の推計では100万人以上)が中国国内の強制収容所に拘束されており、さらには、彼らの臓器を臓器移植ビジネスに利用しているというショッキングな報道がされている。ウォール・ストリートジャーナル紙フォーブス紙ロイターNBCCNNなどは中国政府によるウィグル人を使った大規模な臓器移植ビジネスについて報道しているが、ニューヨークタイムズは一切、臓器移植ビジネスについて報じていない。

ニューヨークタイムズは、ウィグル族に対する中国政府による人権弾圧について非難する社説(社説1社説2)を出しているが、臓器移植ビジネスについては一切報じていない。

ニューヨークタイムズ紙のウェブサイトで、「ウィグル(Uighurs)、臓器移植(organ harvesting)」と検索しても、これら単語を含む記事は出てこない。それどころか、ウォール・ストリートジャーナルが今年2月、ウィグル族を利用した臓器移植ビジネスが中国国内で行われていることを報じたところ、その直後の3月、ニューヨークタイムズは、「イスラム教徒の収容所は『寄宿舎』のようなものと中国政府職員は語る(Muslim Detention Camps Are Like ‘Boarding Schools,’ Chinese Official Says)」という見出しの記事を発表し、中国政府の都合の良い主張を掲載している。ウォール・ストリートジャーナルの記事を否定する内容とタイミングとなっている。

このニューヨークタイムズの記事を執筆したのは、在中国20年以上のオーストラリア人記者Chris Buckleyと、北京駐在の中国系アメリカ人記者Amy Qin。Amy Qinの自己紹介欄には中国政府によるソフトパワーについてや、北朝鮮が支援するカンボジアの美術館などについて執筆経験があると掲載されている。

このニューヨークタイムズの記事の中で、「この施設は強制収容所であるとか洗脳施設と国際的に非難されているが、全くのウソである」とするウィグル族のザキール氏(Zakir)のコメントを掲載している。ザキール氏は、中国政府による対イスラム教徒への弾圧を否定し、中国政府を擁護する人物として知られている。

ワシントンポスト紙もウィグル問題については消極的で、中国政府がウィグル族を臓器移植ビジネスに利用していると報じる記事を2014年に1本(ただし中国政府は否定しているという内容)、そして今月6月に1本(あくまで米国務省が中国政府を非難しているという報道内容)を掲載するにとどまっている。

 

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中国のプロパガンダ戦略は、各国の権威ある新聞に親中の記事を掲載するだけにとどまらず、中国国営のラジオ局(China Radio International: CRI)が制作したコンテンツを、オーストラリアからトルコまで各国の独立系のラジオ局の番組内で放送させるというような方法も取られている。

その一つの例と思われるラジオ番組を、今週6月27日、アメリカのNPOラジオ放送局であるMarketPlaceが放送していた。それはファーウェイが生まれた深セン(香港に近い中国大陸側の新興都市)を礼賛する内容だった。ファーウェイのCFOがカナダで自宅軟禁であり、米国主導のファーウェイ締め出しが世界中に広まり、そして米中貿易戦争の緊張が高まる中、いかに深センがIT集積地として優れているかを絶賛する内容であった。しかも、米国留学の経験がある優秀な中国人をインタビューし、留学後、中国の深センに戻ることにした彼女から、いかに深センがシリコンバレーより優れた場所であるかコメントを引き出している。番組の最後に、深センは「Greater Bay Area(アメリカのシリコンバレーがあるベイ・エリアより優れたベイ・エリア)である」と締めくくっている。

 

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ガーディアン紙が、中国によるプロパガンダ・キャンペーンの内情を暴露してから半年以上経っても、日本や欧米の大手メディアが一斉に口をつぐんで無視を決め込んでいるため、いまだに中国による情報戦略の一部と思われる親中報道が流されている。

 

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