【インタビュー記事】「金融市場が閉鎖されるという現実的なリスクに直面している」とジム・ビアンコ氏
米国シカゴを拠点にするビアンコ・リサーチ(Bianco Research)の設立者兼主幹ストラテジストであるジム・ビアンコ氏が、混乱する金融市場についてマクロ視点で解説している。The Marketに掲載されたビアンコ氏へのインタビュー記事を紹介する。
ビアンコ氏については、以前ここでもインタビュー記事を紹介している。
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<金融市場が閉鎖されるという現実的なリスクに直面している>
新型コロナウィルス(武漢ウィルス)のパンデミックが引き起こす経済および金融面での影響を抑えるために、各国の中央銀行は全力を尽くしている。
ビアンコ・リサーチの創設者兼主幹ストラテジストであるジム・ビアンコ氏は、今回、金融政策では金融市場が崩壊することを防ぐことができない可能性があると警告している。
連銀(FRB)はバズーカ砲を持ち出してきた。FFレートをゼロにまで引き下げ、7000億ドルもの米国債と不動産担保証券(MBS)を買い入れている。これに加えて、スイス銀行を含む5カ国の主要中央銀行と協調して連銀は海外のドル市場における混乱をなだめるためにスワップ枠を開放している。
しかしそれでもなお、市場は満足していないようだ。今週、アジアおよび欧州では大幅な下落で取引が始まった一方で、S&P500の先物取引契約は5%下落しストップ安に達した。
ジム・ビアンコ氏によると、連銀によるこうした動きは最後の抵抗であるという:
「これは、金融市場の歴史において、最大の正念場の一つである。先週、リスク・マーケットで記録した底値は維持されるだろうか?もしそうでなければ、金融市場の新時代は私たちにかかってくることになる」と国際的に有名なシカゴ出身のマクロ戦略家は語った。
The Market/NZZとの深い討論の中で、同氏はなぜ各国の中央銀行が持てる手段の全てを投入しようとしているか、もしリスク資産がさらに下落する場合に何が起きるか、そしてなぜ金融市場を閉鎖することが唯一残された手段になるかを説明している。
Mr.ビヤンコ、連銀は巨額の緊急対策に打って出ました。これは金融市場にとってどういった意味があるのでしょうか?
各国の中央銀行は持てる手段の全てを投入した。彼らが持っているすべての武器を発射したが、彼らが考えていた唯一の目的はこうだ。つまり、彼らは金融市場がこれ以上下落するのを止めなければいけないと考えていた。これは先週後半、連銀が巨額のレポ・オペレーションを開始したことから始まった。欧州中央銀行および日本銀行も発表を行った。さらに、欧州各国の政府はこのパンデミックの影響を食い止めるために尋常ではない行動を取っている。例えばドイツ政府は、基本的に全員の仕事を保証している。
しかし、投資家は納得していないようです。もし市場がさらに下落すると何が起きるのでしょうか?
各国の中央銀行は、先週の底値からさらに株式市場が下落するのを止める必要がある。もし株式市場がこのレベルを突き破って下落すれば、いわゆるFedプット(Fed Put)は死んだことになる。それはもう機能しない。そのため、それを実行するための新たな方法を探そうともしなくなる。アインシュタインが言った「狂気」の定義を理解すればよい:同じことを何度も何度も繰り返し、異なる結果を期待すること(それは狂気だ)。
Fedプットがもはや機能しなくなった場合、どういった影響があるのでしょうか?
各国の中央銀行は次に進む必要があるだろう。もし株価がさらに最低を更新する場合、我々は金融市場が閉鎖されてしまう現実的なリスクにさらされることになる。連銀とその他の中央銀行は、彼らが持てるすべての武器を発射した。もし市場が先週の底値を突き破って下落する場合、何もできることは残されていない。連銀は、連邦準備法(Federal Reserve Act)を改訂せずに株式を直接購入することはできない。連邦議会が法律を改訂するには何週間もかかるだろう。もし連邦議会が光速でそれを進めたとしても、最低1週間はかかる。しかしその前に全てが終わるだろう。
市場を閉鎖することのメリットは何でしょうか?
株式市場が史上最高値から、(先週)木曜の最安値まで27%も下落するのに16日の取引日しかからなかった。我々は、これまでの歴史の中でこのようなことは一度も見たことがない。これに最も近いのは1929年だ。当時の史上最高値から20%の修正が起きるのに42日間かかった。今回の下落スピードは過去に経験したことのない事態だ。
今回の暴落を止めることはなぜそれほど重要なのでしょうか?
もしこれが継続すれば、マージンコール(追証)が発動される。つまり強制的な売却だ。市場は、特に高利回り債や新興市場株といった証券を値付けする能力を失うことになる。これら分野のファンドに投資していた人々は、手持ちの証券を償還することができなくなる。なぜなら値がつかないからだ。それらは身動きの取れない資金となる。また、社債の分野では約款が破られることになり、それにより強制的に支配権の変更もしくは再編が行われることになる。しかし、最大の損害は、年金基金が資金不足に陥るということだ。企業は、自社の企業年金の資金不足を解消するために強制的に何十億ドルもの資金を投じることになる。
もし市場が閉鎖された場合、それはどのような役に立つのでしょうか?
現時点で、我々はこのパンデミックと戦うために他の全てを閉鎖してしまっている。現在、通常営業しているものは他に何もない。だったら、我々が発生した損害をうまく処理できるまで、金融市場を閉鎖してはどうだろうか?金融市場をのちに再開してから、適切な価格の値付けを行うという可能性について考えてみることもできる。
米国の歴史では、規制当局が株式市場を閉鎖したのは4度しかありません:1914年に第1次世界大戦が始まった時、1933年の銀行休業日、1963年にケネディーが暗殺された後、そして2001年の9・11の後です。
現在起きていることがうまくいき、先週つけた最安値を維持できる可能性はまだ残っている。そうなれば、市場を閉鎖することは不要となる。しかし、各国の中央銀行は、私が考えているのと全く同じことを考えていると思う。彼らの行動がそれを物語っている:「我々はこれを今、止めなければいけない。議論をしている時間はもはやない。我々が持てる術を全て今使う。もしそれが今うまくいかなければ、引き下げられる金利がもはや残されていないだとか、バランスシートを暴発させてしまったとかはどうでもいいことだ」。
それでは、連銀は正しいことをしたと?
私だったら、今回の危機においてこれまで各国の中央銀行が行ったことに「A+(優+)」の評価をつける。もし私が連銀議長だったら、同じことをするだろう。しかしこれ(連銀の金融政策)はうまくいかないように見える。それでも私はパウウェル議長に「F(落第)」の評価をつけることはできない。その理由は、彼がすでに行ってきたこと以外に、彼には他にできることが何も残されていなかったからだ。連銀は正しいことをした。しかし現在の環境では、正しいことをするということは必ずしもそれがうまく機能するという意味にはならない。そこで万が一リスク・マーケットが先週つけた最安値を突き破って引き続き下落する場合、最後の手段が残されている:金融市場が崩壊する前に閉鎖するということだ。
先週、米国債市場でいくつか問題が生じていました。何が起きているのでしょうか?
米国債市場は、先週後半になって機能不全に陥った。すべての市場が清算されているように見えた:株価が下落し、債券価格が下落し、コモディティーが下落し、金(ゴールド)が下落した。誰もがドルに避難していたため、米ドル不足にすら陥った。全てが清算された。そのため、連銀はこの問題を認識し、木曜午後、来月5兆ドルのレポ・オペレーションを行うと発表することで市場に介入した。金曜だけで、連銀は1兆ドルをレポ市場に提供した。これをわかりやすく説明しよう:我々は第1弾の量的緩和(QE1)の規模について話をしている。これは2009年の1年間に行われた第1弾の量的緩和が、たった1時間で実行されたということだ。
しかしそれでもなお、市場は金曜に市場が開けると大幅下落しました。
連銀が提供した1兆ドルのうちわずか420億ドルしか借入が行われなかった。それは、2008年に起きた問題のために、銀行に対して彼らのバランスシートにレバレッジをかけることを禁止する複数の規制が敷かれているからだ。つまり、規制のせいで、連銀が提供する流動性資金を銀行は借り入れることができない。それが理由で、連銀は現在、量的緩和を行っている。
巨大なヘッジファンドの1社、もしくは別の巨大な組織が破産しかかっているという噂が流れています。
その通り。ヘッジファンド界隈では超巨大な損失が発生しているという話がある。ブルークレスト(BlueCrest)、H2O、ブリッジウォーター(Bridgewater)は、全て約20%の損失が発生している。このような市場の大混乱が起きた今、投資界隈でどこかの企業が問題を抱えているという噂話が流れるのも当然だ。私の予想では、先週の最安値からさらに株価が下落し続ければ、投資業界で誰がいまだに健全だろうかという噂話が流れ始めることになる。だから我々は市場を閉鎖しなければいけないのだ。
ゴールドマンサックスのような投資銀行は、米国のGDPは第2四半期に5%のマイナスに縮小すると予測しています。これは現実的な見積もりでしょうか?
数週間以内に、この予測は楽観的なものに見え出すことを私は恐れている。もちろん、このパンデミックにより引き起こされた経済崩壊は、1四半期もしくは2四半期という一時的なものになるだろう。しかし、長期に続くダメージが生じ、経済が何年にもわたって妨害されるというリスクはとても現実的なものである。
投資ビジネスに長年携わってこられて、何度か崩壊を見てこられています。今回の危機について、個人的にどのように見ていらっしゃるでしょうか?
今回は我々が生きてきた中で経験したことがない出来事だ。今日、金融市場で起きていることは、2008年の金融危機を超え、9・11の危機を超え、ITバブルを超え、1987年の崩壊をも超えている。おそらく1929年は、依然として今回の危機より大きいだろう。しかし我々のほとんどは、当時生まれていなかった。我々は、アメリカの歴史の教科書、そして世界の歴史の教科書に新たな章を書き加えている。まだその章の数ページしか進んでいない。また、この章がどのように終わるのか、我々はまだわかっていない。しかし我々の孫の世代は、将来、2020年の大パンデミックについて学校で学ぶことになり、それが世界史にとってどういった意味があるかを学ぶことになる。
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