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JPモルガンは金融システムを人質に取りFRBに量的緩和を再開させたのか?:レポ取引市場の裏側で行われていた駆け引き

Jamie Dimon

ここでも報じたように、9月にアメリカのレポ取引市場で起きた流動性の枯渇危機は、JPモルガンが金融市場と連銀の口座に預託していた準備金から自己資金を大量に引き上げたことで発生した。その結果、連銀は資本リスクを下げるために(量的緩和とは呼ばない)実質上の量的緩和を再開することとなり、さらには主要金融機関に課されたG-SIBサーチャージを下げることにつながっている。(財務省のムニューシン長官は、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOの支援を受けて、この資本規制を緩めることを示唆したとブルームバーグが報じている。一方、大統領候補のウォーレン議員はこの規制を緩めるべきではないと警告している。)

 

金融庁の公式ホームページではG-SIBを次のように説明している:

 

G-SIBs及びD-SIBsは、国際合意に基づき、金融機関ごとにシステム上の重要性を評価し、リスク・アセット対比で一定水準の追加的な資本の積立てを求める金融機関です。

 

G-SIBs及びD-SIBsはそれぞれ、『グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs:Global Systemically Important Banks)』と、『国内のシステム上重要な銀行(D-SIBs:Domestic Systemically Important Banks)』を指している。そしてG-SIBサーチャージとは、各金融機関の重要性に応じて課された資本規制のことを指す。

 

現在、アメリカ国内で最大の銀行であるJPモルガンに対して課せられたG-SIBサーチャージは過去最高となっている。この資本規制を緩和させるために、JPモルガンは密かに現金を市場から引き上げ、さらには自行のバランスシートを劇的に変更していたことが明らかとなった。

 

ファイナンシャルタイムズ(FT)紙が報じた内容によると、JPモルガンは準備金から1300億ドル以上の余剰資金を引き出すことで、銀行間取引市場における流動性を著しく低下させた。そして手元の貸付(ローン)金額を減少させつつ、その引き出した大量の資金を長期債券に配分していた。FT紙はこのことを、「資産規模でアメリカ最大の銀行が、その巨額のバランスシートの管理方法に大きな転換を行った」と報じている。

 

この転換により、JPモルガンが保有する債券ポートフォリオは50%も急増した。またこの動きは、資本規制が、貸付(ローン)を債券よりもリスクの高いものとして規定しているために行われた。

 

JPモルガンは毎年、株主に対して何十億ドルもの資金を配当金や自社株買いを通して積極的に還元しているため、その他ほとんどのライバル銀行に比べて、よりリスクの高い資産を保有する余裕が著しく低い状態となっている。このことが、JPモルガンに課せられたG-SIBサーチャージが大幅に高い原因となっている。

 

 

米大手金融機関ごとの四半期別G-SIBサーチャージ

 

ティッカーシンボル

JPM

C

WFC

BAC

GS

MS

BK

STT

2018Q1

4.0%

3.0%

2.0%

2.5%

3.0%

3.0%

1.5%

1.0%

2018Q2

3.5%

3.0%

2.0%

2.5%

3.0%

3.0%

1.5%

1.0%

2018Q3

4.0%

3.0%

2.0%

2.5%

3.0%

3.0%

1.5%

1.0%

2018Q4

3.5%

3.0%

2.0%

2.5%

2.5%

3.0%

1.5%

1.0%

2019Q1

4.0%

3.0%

2.0%

2.5%

3.0%

3.0%

1.5%

1.0%

2019Q2

4.0%

3.5%

2.0%

3.0%

3.0%

3.0%

1.5%

1.0%

(Source: 各銀行が連銀に提出したFR Y-15報告書)

 

大手機関投資家のとある幹部は、FT紙の取材に対して、JPモルガンが行ったことは「信じられない。JPモルガンが行っていることは度肝を抜かれる衝撃的なスケールだ・・・貸付金を一定水準に保ちながら資金を証券へ移行させるとは」と語っている。

 

この劇的なバランスシートの大改革は、今年一年を通して徐々に行われた。このことが、今年9月レポ取引市場の金利を急上昇させるきっかけになった可能性が高い。このバランスシートの大改革について、JPモルガンが最初に警告を発したのは、今年2月に開かれた投資家イベントの会場だった。当時のCFO、マリアン・レイク氏は、貸付(ローン)の拡大は何年も業界をリードしてきたが、「現在我々が位置している資本体制の現実に気が付かなければいけない」と語っていた。

 

具体的にJPモルガンが行ったことは、年初以来、同行の貸付(ローン)ポートフォリオを4%(約400億ドル)削減し、それと同時に住宅ローンを売却しつつ、バランスシート上にある現金を削減し、それを使って長期債券を購入した。

 

そしてJPモルガンは、FRBが遅かれ早かれ不動産担保証券を購入対象にした、完全な量的緩和(QE)を再開するだろうと見越していた。FT紙は、JPモルガンが増加購入した証券の大部分を不動産担保証券が占めると記している。銀行は、住宅ローンそのものを保有するよりも、不動産担保証券を保有することに対する自己資本比率が大幅に低くて済む。こうした資本規制の側面も、JPモルガンがローンから証券へと資産を大幅変更した理由となっている。

 

JPモルガンによる戦略的な資本の再配分について、M&Aアドバイザリー企業Sandler O’Neillのジェフリー・ハート氏は、「結局、経済的な意思決定に帰結する。彼らは(ローンを)購入するよりも販売するほうが金になる」と語っている。

 

JPモルガンの競合相手であるバンカメ(Bank of America)は、連銀による資本規制の条件が比較的緩いため、同行は保有するローン・ポートフォリオを引き続き拡大させているとFT紙は報じている。この対照的な戦略は、連銀によるストレス・テスト体制の下でより大きな「クッション」がバンカメにはあることを反映している結果だと複数のアナリストたちが語っている。

 

一方、JPモルガンは高い利益を生んでおり、「同行が望めば、そのバランスシートにより高いリスク資産を追加することもできる」。しかし、同行は、生み出した多額の利益を株主に還元する方を選んでいる。前回のストレス・テストの際、JPモルガンは今年中に、320億ドルの自社株買いと配当を計画していることを明かしていた。この金額は、JPモルガンが昨年生み出した総純利益よりも多い

 

Wolfe Researchのスティーブン・シュバック氏は、JPモルガンが「同行が置かれた特異な資本制限の下では正しいことを行なっている」と語っている。しかし、バンカメに、より多くの資本の自由が与えられているということは、「バンカメがローンを拡大するためにより多くの余裕がある(しかしこのことは通常スプレッド幅をさらに広げる)」ことを意味しているとも語った。

 

一方、JPモルガンの動きに懐疑的な人たちもいる。Portales Partnersのチャールズ・ピーボディー氏は、銀行業界の先行きは暗いと予想している。彼は、JPモルガンが行なっているバランスシートの大改革は、より大きなリスク削減戦略の一部と見ている。「(JPモルガンは)次の不況がもうここに来ているかのように行動している。同行が行なっていることは全て、その方向を指している」と同氏は語っている。

 

彼のコメントは正しい。しかしより大局的な視点に立つと、興味深いことが見えてくる。銀行間資金調達コストを引き上げ、そしてFRBがさらなる流動資金を金融システムに投入するよう仕向けるために、JPモルガンは最初に大量の準備金を引き出し、金融市場に資金不足を発生させた。これによりFRBはたった7週間の間に2500億ドルにものぼる資金をそのバランスシートに追加せざるを得ない状況に追い込まれた。

 

つまり、JPモルガンは、同行の株主に富をもたらすべく、何百億ドルにものぼる自社株買いや配当がスムーズかつ確実に行えるよう、ジェイミー・ダイモンCEOはアメリカの金融システムを丸々「人質」に取り、FRBに対して「量的緩和」を強制的に再開させる状況を意図的に作り出したとも言える。

 

これが泣く子も黙るウォール街のトップの金の稼ぎ方なのかもしれない。

 

 

 

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