【逆オイルショック】サウジアラビアが米国に仕向けた「原油爆弾」:今後その大打撃を受けることが予想される世界8カ国
■ 原油価格は再び暴落しマイナス40ドル以下へ
地政学の観点からコンサルティング・サービスを提供する企業Zeihanの設立者で、地政学ストラテジストのピーター・ザイハン氏は、4月20日に起きた原油先物価格の大暴落は再び起きるだろうと予言している。さらに、次に起きる時はさらにその規模が巨大なものとなるだろうとも語っている。期近6月物の原油価格もくすぶっており、オクラホマ州クッシングにある貯蔵スペースも6月までに満杯になる見込みだ。
しかし次に原油価格がマイナスをつけるとき、それはオクラホマ州クッシングの原油貯蔵スペースだけではなく、世界中の貯蔵スペースが満杯になるとザイハン氏は予想している。
各国によって原油貯蔵スペースの容量をどのように分類分けしているかが異なることや、国によってはそれを秘密にしているため、誰も世界にどれくらいの原油貯蔵スペースがあるか正確な数字を知らない。現時点で、世界で過剰供給されている原油は、少なくとも日量2000万バレルである(ざっくり日量3000万バレルというのが平均的な見方だ)。業界関係者たちは、5月もしくは6月初旬までに世界中の原油貯蔵スペースが完全に満杯になるだろうと考えている。そしてそれこそが、世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアのサルマン皇太子の狙いだ。
原油市場に混乱を引き起こし、原油価格をマイナスに暴落させることで、アメリカのシェールオイル企業やロシアだけではなく、カザフスタン、アゼルバイジャン、リビア、イラク、イラン、マレーシア、インドネシア、メキシコ、ノルウェー、英国、ナイジェリア、チャドなど、世界の産油国をターゲットにしているとザイハン氏は指摘する。もしサウジアラビアが世界の原油価格をマイナスに押し下げることに成功すれば、こうした世界の産油国の多くが破綻に追い込まれる。
ザイハン氏は次のように分析している:
私がざっくり計算すると、世界の産出量の5分の1にあたる日量2000万バレルの生産が、何年にもわたって停止されることになる。そうなれば、サウジアラビアは望んでいたものを達成できる。つまり、自らが望む分だけ原油価格を釣り上げることができ、少なくとも数年間にわたって世界の石油業界に対して支配的な力を持つことができる。・・・
WTI原油価格が4月20日に暴落したことで、たとえサウジが、自らの戦略がどれほど潜在的な威力があるかについてそれまで気がついていなかったとしても、現在はその威力に確実に気がついている。彼らが今から引き下がる理由はなにもない。
そしてザイハン氏は、米国のシェールオイル企業の他に、特に次の8カ国の産油国が危機に直面していると分析している:
- カナダのアルバータ州は、最も損害が大きくなる。陸地に囲まれているだけでなく、ここは産出する原油の全てを米国市場に売らなければいけない。しかし米国市場はすでに飽和状態となっている。ここの原油生産は何年にもわたって閉鎖されることになる。
- ベネズエラは、原油価格の暴落が起きる以前から、すでに失政により文明の崩壊に直面していた。原油が同政府の唯一の収入源であることを考えると、原油価格の暴落はベネズエラが国として終焉することを指す。同国の原油生産は、少なくとも10年間は回復しないだろう。しかしたとえ原油生産が再開されるにしても、それは国外勢力がまず物理的に侵入し、同国を土台から再建することができればの話だ。
- 米国がイランに対して科している制裁は非常に高い効果を発揮しているため、イランはもはや原油輸出国ではない。この夏、イランの原油産出量は完全に崩壊するだろう。イランには、原油の採掘を再開するために外国人技師を雇う資金力も、自らそれを行えるだけの技術力もない。
- ロシアの油田は湿地帯や永久凍土に位置している。掘削することは冬にのみ行うことが可能である。いかなる理由でも、油田を一時封鎖すれば、油田は完全に凍りつく。そのため、また完全に新しく掘削を行う必要がある。前回、この状況が発生したとき、ロシアは生産量を回復するのに15年近くもかかっている。
- アゼルバイジャンとカザフスタンは、自国で生産した原油を市場へ搬送するのに外国(場合によってはロシア)に依存している。生産コストが高いことに加えて、気難しい隣国と接していることで、長期間、油田は封鎖されることになる。
- ナイジェリアは常に混乱している。石油資本のスーパーメジャーは、ナイジェリアを原油産出国へと育てたが、同国の混沌とした社会と治安悪化により、確実にオフショアへ移行している。スーパーメジャーは、いったんナイジェリア油田を封鎖すれば、自社の社員がしばしば誘拐されるような場所では、世界の原油価格が十分利益を生むレベルにまで回復しない限り、再開を検討することすらしないだろう。これは、数年間は油田が封鎖されることを意味する。
- イラクは、15年近くも内戦に近い状態となっている。イラクは日量400万バレルを現在生産している。そこから得られる収入により国を保っている状態だ。しかし原油価格がマイナスになれば、「内戦に近い」状態から本格的な内戦に突入し、いくらよく見積もっても、ペルシャ湾岸のアラブ諸国の被保護者の地位に貶められるだろう。
■ 原油価格はマイナス100ドルに?
原油価格が、マイナス40ドル以下にまでふたたび大暴落すると予想しているのはザイハン氏だけではない。3月17日の時点で、原油価格がマイナスをつけることがありうると最初に予想していた、みずほ証券のアナリスト、ポール・サンキー氏は、今週火曜ブルームバーグ・テレビに出演し次のように語った:
来月、1バレル当たりマイナス100ドルをつけるだろうか?かなりあり得る話だ。・・・ものの数週間で、原油を貯蔵するスペースは満杯になる可能性がある。
ゴールドマン・サックスもまた、米国だけではなく世界の原油貯蔵スペースが、この先3〜4週間で満杯になると予想している。
しかし、こうした専門家による警告とは反し、アメリカの個人投資家たちの多くがアメリカ最大の原油ETFであるUSOへ投資を行っている。
取引手数料無料を謳い、若者の間で利用が広がっている株取引アプリRobinhoodでは、4月24日時点で19万6000人以上がUSOへロング・ポジションの投資を行っている(以下はそのグラフ)。原油価格が大暴落したことを受けて、今後値上がりするのは確実と見越して多くの個人投資家がこのETFに飛びついているようだ。
(ピンクの折れ線はUSOの価格。緑の折れ線はそれにロング・ポジションの投資をしている個人投資家の人数。)
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