香港「国家安全法」の導入方針決定で加速する米中の応酬合戦|米国は学生ビザの無効化を検討。チャイナは国連緊急会議を開くことに拒否権を発動
北京政府は、5月28日、北京で開いた全国人民代表大会で、香港に対して「国家安全法」の導入方針を決定した。この議案が採択されるのはほぼ確実視されていたため、前日の5月27日、ポンペオ国務省長官は、すでに「香港は高度な自治を維持できておらず、アメリカが認めてきた貿易や投資における優遇特権の継続にもはや値しない」と連邦議会に報告していた。
「国家安全法」の採択をきっかけに、米中間で制裁の応酬合戦が急加速している。
【米国側の応酬】
■ 米上院議員はチャイナへの関税を香港にも適用へ
米国現地時間の今週木曜朝、金融系ケーブル局CNBCに出演したパット・トゥーミー上院議員(共和党)は、チャイナに対してかけられている関税が香港にも適用されるだろうと語った。米国はチャイナの「特別行政区」として香港に対して与えていた貿易優遇ステータスを剥奪する準備を進めている。
SEN. TOOMEY: HONG KONG MAY BECOME SUBJECT TO CHINA TARIFFS… seems like its all in the price and will just hurt HK status as a trading and financial hub
— FxMacro (@fxmacro) May 28, 2020
【訳】トゥーミー上院議員曰く:香港はチャイナに対してかけられている関税の対象となる可能性がある・・・それは全てすでに価格に反映されているように見え、今後、香港の貿易と金融のハブとしての地位を傷つけるだろう。
ウォール街のアナリストたちは、今週水曜、こうした動きにより米国と香港の二国間貿易において、約380億ドル分が破壊される可能性があると指摘している。
■ ホワイトハウスは人民解放軍とつながりがある大学院生を入国拒否
ホワイトハウスは、人民解放軍とつながりがあるチャイナからの大学院生が米国に戻ることを禁止する最新の法案を発表した。これをニューヨークタイムズ(NYT)紙が報じた。
NYT紙によると、トランプ政権は、人民解放軍とつながりがある数千人ものチャイニーズの大学院生および研究者たちに対して、発行済みであるビザを無効化する計画であるという。政権内部の複数の人物が情報源と報じている。
トランプ政権がチャイナからの学生に対して米国留学することを禁止する検討を行ったのはこれが初めてではない。2018年、トランプ政権は、全てのチャイナからの学生が米国に留学することを禁止する検討を行っていたとフィナンシャル・タイムズ紙が当時報じていた。
NYT紙によると、この法案は検討され始めてからしばらく時間が経過しており、チャイナが香港の自治へ介入する動きを見せる以前から検討されていたという。
■ 連邦議員は、STEM分野を学ぶチャイナからの大学院生への学生ビザ発給を禁止へ
上記のホワイトハウスによる学生ビザの無効化をさらに一歩踏み込んだ制裁を、3人の連邦議員が検討しており、大陸チャイナからの学生が米国でSTEM(科学、技術、工学、数学)の分野を学ぶために留学することを禁止する法案を提案している。
2人の上院議員と1人の下院議員は、今週水曜、Secure Campus Act(セキュア・キャンパス法)により、チャイナ国籍の人物が、STEM(科学、技術、工学、数学)の分野で大学院もしくは大学卒業後の学習・研究を行うためにビザを取得することを禁止することになると語った。これをサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙が報じた。同紙によると、台湾と香港からの学生は規制の対象外となる。
この法案の起草者の1人であるトム・コットン上院議員(アーカンソー選出・共和党)は次のように語っている:
中共は、米国に対するスパイ活動を行うために、アメリカの大学機関を長年利用してきた。さらに最悪なのは、彼らのスパイ活動が、現在の法律の網の目を悪用しているということだ。これに終止符を打つときが来た。
この法案は、チャイナによって2008年から実施されている「千人計画」の一環として、アメリカの大学や研究所で勤務する教授や研究者たちが、中共政府により懐柔されスパイと化すことを防止することにもなると期待されている。(これまでにチャイナの浸透工作を受けて逮捕された全米の大学の関係者リスト。)
今週水曜夜、東アジア・太平洋地域担当国務次官補のデービッド・スティルウェル氏は、チャイナが香港に対して国家安全法を採択したことについて、トランプ大統領には様々な制裁の選択肢があると記者団に対して語っている。
【チャイナ側の応酬】
■ チャイナは国連緊急会議を開くことに拒否権を発動
今週水曜、米国政府は、チャイナが香港に対する「国家安全法」の議題を提案したことについて、国連に緊急会議を開くことを要請した。しかし北京政府は拒否権を発動し、緊急会議を開くことを阻止したと米国の国連大使らが語った。これを香港フリープレスが報じている。
米国は、北京政府による動きが「深刻な懸念を招く」と表明し、国連安全保障理事会の緊急会合を開くことを要請した。しかしチャイナは「このバーチャル会議を開くことを拒否した」と、米国政府による国連派遣団は発表した声明の中で語っている。
チャイナの国連大使ジャン・ジュン氏は水曜夜、次のツイートを投稿している:
China categorically rejects the baseless request of the US for a Security Council meeting.
Legislation on national security for Hong Kong is purely China's internal affairs.
It has nothing to do with the mandate of the Security Council.
— Zhang Jun (@ChinaAmbUN) May 28, 2020
【訳】チャイナは、米国による安全保障理事会を開くという根拠のない要請を断固として拒否する。
香港に対する国家安全法案は、純粋にチャイナの内政問題である。
これは安全保障理事会による委任となんら関係ない。
■ コロナ災禍の発生源としてチャイナ国民が米国を訴えることを合法化へ
約1ヶ月前、ミズーリ州政府は、新型コロナ・パンデミック発生に対する責任を求めて、チャイナ政府に全米で初めて州政府として訴訟を起こした。この起訴状の中で、チャイナ共産党、武漢市政府、武漢ウイルス研究所、中国科学院(Chinese Academy of Sciences)を被告人として名指ししている。
こうした訴訟に対抗して、チャイナの立法機関は、チャイナ国民がコロナ災禍に関して米国政府を訴えることができるよう、国家主権による免責特権(主権免除)を変更する法案を提出した。これをニューヨークポスト紙が報じている。
チャイナの国営メディアGlobal Timesの報道を引用して、中共政府は、現在ある法律を修正することで、外国政府に対して訴訟を起こすことを許可することを模索しているとニューヨークポスト紙は報じている。
米国内では、ミズーリ州に続き、ミシシッピ州、テキサス州、ニューヨーク州、フロリダ州がチャイナおよびチャイナ共産党に対して訴訟を起こしている。
【次に何が起きるか?−−最悪のケース】
トランプ政権が、チャイナに課された関税を香港に適用しようとしても、1992年米国-香港政策法(U.S.-Hong Kong Policy Act of 1992)は香港にそうした関税を免除しており、米国の機密技術にアクセスする特権を与えている。理論的には、トランプ政権はこうした特権を剥奪することはできる。
しかし米国政府は最初の駆け引きとして以下のような行動に出るだろうと、米財務省でチャイナ専門家として勤務した経験があり、現在はTCW Groupでアナリストを務めるデービッド・ロビンジャー氏はブルームバーグに語っている:
(米国政府は)多くの強気の発言を行い、チャイナの政府関係者に対する金融制裁やビザ制限をちらつかせる可能性がある。しかし彼らも馬鹿ではなく、彼らの金融資産を米国に置いたままにはしないだろう。
彼ら(米国政府)は、この新たな法律(国家安全法)がどのようなものであるか、そしてどのように運用されるか見極めるまで、より大きな武器である関税、輸出規制、投資制限といったことは温存したままにするだろう。
そしてチャイナに特化した独立系マクロ経済・政策予測会社であるEnodo Economicsは、米国が持っている「最終兵器」は、「チャイナの銀行を米ドル建ての決済システムから排除すること」であると言う。ただし、現時点ではこの選択肢を実行する可能性は低いと言う。
香港が次の「ブラックスワン」となるのだろうか?
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