米財務省、「米国株式市場から中国企業の上場廃止を検討」という報道を否定
9月27日(金曜)、ブルームバーグ紙は、アメリカ政権が中国企業を米国内の株式市場から上場廃止することを検討していると報じ、株式市場を動揺させた。米国内の株式市場に上場している中国企業のAlibabaやBaiduの株価は急落した。しかしその翌日の土曜、ブルームバーグ紙はこのスクープ報道を否定する財務省の声明を報じた。
米財務省の広報官のモニカ・クロウリー氏は、土曜、ブルームバーグ紙が行なった前日の報道に対して、同紙にeメールで以下の声明を返信した:
現政権は、中国企業がアメリカの株式市場に株式を上場することを禁止する検討を現時点では行っていない・・・(すでに上場している)中国企業を米国株式市場から上場廃止することも検討していない。
しかし、広報官のクロウリー氏による声明は、「政府系年金基金を通してアメリカ人が抱える、対中国市場に対するエクスポージャーを制限する」や、米国内の株式指標に含まれる中国企業に上限を設けるといった、中国からの「資本制限対策」が提案されていることについては言及も否定もしていない。
当初のスクープ報道に対して、市場関係者はショックを隠さない反応を示していた。Columbia Threadneedle社のストラテジストであるエド・アルフサイニー氏は金曜、「これは『前菜』ではない。この政権でも、この規模の資本制限を行うことを正当化することは困難だろう」とコメントしていた。
ブルームバーグ紙はまた、米国内における中国資本を規制する政権の提案を、Citigroupが以下のように説明していることも報道していた:
世界の2大経済大国の間でますますライバル関係がエスカレートしている中、アメリカが対中制裁として実施しうる最も極端な制裁、つまり米国資本へのアクセス制限である。
アメリカから中国国内市場に投資しているのは、中国本土の長期金融資産を持つ居住者に限られ、その資産総額は6月時点で2030億ドルしかないと同紙は報じている。これはアメリカ人が南アフリカに保有している資産規模の2倍強でしかない。一方、アメリカの3大取引所に上場している中国企業の時価総額は、2月時点で約1兆2000億ドル。
資本規制について否定記事が報じられる前、Asymmetric Advisorsのストラテジスト、アミール・アンバルザデ氏は、「これは不確実性がさらに高まることになり、予定されている次の貿易交渉が良い結果をもたらすための良い前兆にはならない」と語っていた。
また、ArkeraでFXとグローバル・マクロのストラテジストであるビラジ・パテル氏は、次のツイートを行っている:
White House potentially delisting Chinese companies from US stock exchanges is a roundabout way of capital controls that could impact US inward portfolio flows and the US dollar. All other $USD weakening tools haven’t worked. Trump now looking to bring out the heavy artillery… pic.twitter.com/iZWtP3gI7P
— Viraj Patel (@VPatelFX) September 28, 2019
【訳】ホワイトハウスが中国企業を米国株式市場から上場廃止する可能性について、これは米国内に流入するポートフォリオの流れと米ドルに影響をもたらすための、間接的な資本規制の方法。米ドル安を誘導するその他すべての方策は機能してこなかった。次にトランプは、この「重砲」を持ち出してくることを検討している・・・
しかし翌土曜になって、金曜のスクープ記事を否定する財務省の声明が報じられた。財務省は正式に報道を否定しているが、ブルームバーグ紙は当初のスクープ記事にはまだ信憑性があるとする記事を土曜夜に発表している:
(政権幹部たちは)複数の選択肢を何週間にもわたって検討しており、財務省は、ラリー・クドロウ氏が議長を務める複数の省庁間ミーティングに参加している。(中略)
依然として、この強気な政策は、アドバイザーであるピーター・ナバロ氏や外部アドバイザーであるスティーブ・バノン氏といった、主にトランプ政権の中でタカ派のスタッフから起こされている。国家経済会議(NEC)や財務省は、市場の反応を不安視しており、確実に、いかなる政策も投資家を驚かせるような方法では実行されないよう動いていると彼らは語った。
今回のブルームバーグによるスクープ報道は、情報源とされる人物と記者との間で起きた「ミス・コミュニケーション」が引き起こしたようだ。しかし、トランプ政権内で、タカ派のスタッフたちは米中貿易戦争を苛烈化させるよう圧力をかけるような政策を検討していることは否定されていない。その一端が報じられると、株式市場が敏感に反応して下落したため、ハト派の政権幹部たちがその火消しに動いたと見るべきだろう。
スクープ記事が報じられた翌日、政権に近い複数の人物らは、議論の内容が漏れて報じられたことに苛立っていることや、ホワイトハウスはまだ政策の実施を決定していないと強く主張していることをブルームバーグ紙は報じている。彼らは、議論の中では多様な選択肢を精査しており、そのためそれらを公にする準備はまだできていないと語っている。
現政権内部の中で、資本の流れを取り締まることを主張している人物たちは、米国内で上場されているのか中国国内で上場されているのかは関係なく、中国企業へ行われているアメリカからの投資は、詐欺被害に遭うリスクがあると主張している。その理由は、中国企業のコーポレート・ガバナンス基準が未熟だからである。また、彼らによると、政権内部のタカ派が行っている資本規制の議論は、それをやめさせるためにハト派たちがリークしたことは事実であると語っている。
このハト派とタカ派のメディア対決であるが、ここ数日、弾劾裁判の審理が開始されたことで注目がそちらに流れ、トランプ大統領に対する批判記事があふれているせいで影が薄くなっている。
しかしここ2週間、米中貿易戦争に関しては同じようなメディアによる騒ぎと、それに一喜一憂する市場という状態が続いている。1週間前の金曜は、中国政府からの代表団がモンタナ州とネブラスカ州の訪問を取りやめるというニュースが報じられて、株価が一時下落した。貿易交渉に対する楽観論に冷や水がかけられたためだ。しかしこの報道が否定されると、月曜に株価は急上昇した。
これが起きた1週間後に、この資本規制のニュースが流れて株価が急落したが、それを否定する財務省の正式声明が報じられた。本日日曜に開かれた先物取引では、Dow、S&P500、Nasdaq共に金曜の終値からわずかにプラス(+0.16%〜0.20%)で取引されている。
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