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中国の大手政府系企業、天津物産集団が事実上の債務不履行:中国国内では3つの銀行が立て続けに国有化され、2つの銀行に取り付け騒ぎが発生

Tewoo Group

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今年5月以来、中国では包商銀行(Baoshang Bank錦州銀行Bank of Jinzhou、恒豊銀行(Heng Feng Bankという3つの銀行が国有化され、金融機関に対する信用が著しく低下している。

 

さらに約1ヶ月前には、中国の洛陽市近郊にある中小規模の河南伊川農村商業銀行(Henan Yichuan Rural Commercial Bank)で取り付け騒ぎが起きた。同銀行が倒産するという噂が流れ、顧客たちが預金を引き出そうと長蛇の列をなした。それから約2週間後の11月初旬には、小規模銀行である営口沿海銀行(Yingkou Coastal Bank)で取り付け騒ぎが起きており、同銀行の各支店では人民元紙幣を大量に準備する必要に迫られた。銀行への取り付け騒ぎが立て続けに起きているということは、いかに中国国内の金融機関の信用が落ちているかを表している。

 

今年の5月以前まで、中国では銀行が公に倒産したことは一度もなかった。中国共産党がそれを許さなかったという側面はあるだろうが、5月以降、少なくとも5つもの銀行で国有化あるいは取り付け騒ぎが起きているというのは未曾有の事態である。

 

そして中国国内の債券市場もまた、かつてない危機的状況に直面している。フォーチュン500に名を連ねる中国の商品取引業社である天津物産集団(Tewoo Group)が、ドル建て債市場で事実上の債務不履行(デフォルト)に陥り、債務再建計画を発表した。中国の政府系企業としては、過去20年間で最大規模のデフォルトとなる。

 

ブルームバーグ(日本語記事;英語の原文記事)は、今回の大手国有企業のデフォルトは「政府支援の『節目』」と報じている:

 

S&Pグローバル・レーティングの黄馨慧(Cindy Huang)アナリストは、天津物産のデフォルトは「節目の事例」として捉えられるだろうと指摘。中国では中央政府による公有企業支援が今後は選別的になる公算が大きく、景気減速と財政悪化で地方政府の援助は限定されるだろうと述べた。

 

しかしこれは中国政府に甘い見解と言える。これほど大規模の政府系企業を救済せずにデフォルトさせるということは、中国政府がその40兆ドルにのぼる自国の金融システムをコントロールできなくなったことの表れだとも言える。

 

天津で最大の政府系企業である天津物産集団は、「過去に例を見ない」債務再建計画を発表しており、投資家に対して64%の損失を受け入れるか、利回りを大幅に引き下げた新規発行社債と交換するかの二択を提示している。

 

天津物産集団は天津市が保有している政府系コングロマリットであり、同社のサイトによると、インフラ、流通、鉱山業、自動車、港湾事業など幅広い分野で活動している。また、中国国内だけではなく、米国、ドイツ、日本、シンガポールなどでも事業展開している。2018年のフォーチュン500社の中で132位にランク付けされており、チャイナ・テレコムや金融大手の中国中信集団公司(Citic Group)などの政府系コングロマリットよりも高い位置にランク付けされている。フォーチュン誌によると、2017年時点で天津物産集団の売上高は666億ドル、利益は約1億2200万ドル、保有資産は383億ドルであり、1万7000名以上の社員を抱えている。

 

政府系コングロマリットである天津物産集団は、株式を上場しておらず、国際的な3大格付け会社による評価も行われていない。しかし、同社の社債は公的に取引されている。北京政府による裏付けがある政府系コングロマリットであるため、投資家たちはよもや倒産などありえないと考えていたようで、ここ数ヶ月の社債の取引価格はそれほどひどい状況ではない。

 

(Source: cbonds.com

 

上の価格チャートを見て明らかなように、天津物産集団の財務状況が悪化していることが表面化したのは、今年4月である。同社は、この時オフショアのドル建て債について、投資家らに償還日の延期を要請しており、さらに資金繰りが悪化したため銅を市場価格以下で売却していた。これに伴い、格付け会社のフィッチ・レーティングス(天津物産集団の信用状態について格付けを行なっている唯一の会社)は、4月18日、同社の信用スコアをBBBからBBB-(マイナス)へと引き下げた。しかしそれから2週間もたたない4月29日には、同社の流動性が脆弱化し、また予想以上のレバレッジがかけられていると判断し、BBB-(マイナス)からB-(マイナス)へといきなり6段階も信用スコアを引き下げている。

 

ブルームバーグによると、天津物産集団は、この先3年間で満期を迎える3種類のドル建て債と永久債に対する公開買付けを提示している。こうした債務再編計画は、米国では珍しいことではないが、中国の政府系企業で行われるのは初めてのことである

 

さらに特筆すべきは、もしこの債務交換のオファーが完全に実施されなければ、12月16日に償還期限を迎える3億ドル分の債券の返済ができず、天津物産集団が債務不履行に陥る可能性が高いと、情報源とされる人物がブルームバーグに語ったことだ。天津物産集団の債権者たちには、64%の損失を受け入れるか、もしくは12億5000万ドル分の社債へのクーポンを大幅に引き下げ、しかもその支払い期日を延期するという二択のどちらかを選ぶのに数週間しか猶予が与えられていない。格付け会社は、これを「契約不履行事由(event of default)」と判断するだろう。

 

先週、天津物産集団が5億ドル分の社債に対する金利を支払うことができないと発表した後に、この「債務交換のオファー」が提示された。これにより、中国工商銀行(Industrial & Commercial Bank of China)はその代理人として、787万5000ドルを債権者に譲渡した。中国工商銀行は、スタンドバイ信用状(借り手が返済できなければ代わりに返済を行う誓約)を発行している。しかし、天津物産集団の残る16億ドル分のドル建て債にはそのような補償は付帯していない。

 

しかし問題はそれだけではない。天津物産集団の事業部門の中には、地方負債の支払いを既に滞らせているところがある。7月、天津市浩通物産有限公司(Tianjin Hopetone)は、その12億1000万人民元分の社債に対するクーポンの支払い(利払い)を滞らせている。この事態を受けて、同社のドル建て債の1ドル当たりの価格は50セント以下へと下落した。また、天津市浩英工貿有限責任公司(Tianjin Haoying Industry & Trade)は、6月が期限であった貸付利子の支払いを滞らせている。また、7月にはフィッチ・レーティングスが、格付けを行うための十分な情報が得られないという理由から、天津物産集団の格付けを撤回している。同社が最後に行った天津物産集団の格付け評価は、B-(マイナス)であった。

 

当然、債権者たちは、どういう理由から国有企業が債務不履行に陥ったのか説明を求めて殺到している。一方、北京政府はすでに次の段階へと手続きを進めており、資本投資管理中心(Capital Investment and Management Center)と呼ばれる天津地方政府が完全所有する組織が、天津物産集団のオフショア債券を管理するよう指名されている。現在のところ、資本投資管理中心は天津物産集団の企業支配権を取得する計画はないが、同社の財務状況が改善できなければ、その計画は変更される可能性が高い。一方、天津物産集団は、債務管理を行うために一連の方策を講じる計画であると発表している。

 

天津物産集団のような政府所有の公営企業が事実上の債務不履行に陥ったという事実は、北京政府がもはや経営難に陥った国有企業を救済しないということを示している。当然、民間企業は国の救済対象外だろう。中国経済が、ここ30年間で最も減速していることが大きく影響していることは容易に想像がつく。また、天津物産集団だけではなく、天津政府そのものに対する懸念も発生している。同市が所有するその他の政府系企業の数社が、格付けの引き下げや財務状況の悪化に苦しんでいるためだ。また、北京近郊にある地方政府は、GDPに占める最大の地方債を抱えている。つまり、天津物産集団の債務管理がつまづけば、ドミノ倒しのように債務不履行の波が中国全土に広がる可能性がある。

 

国盛証券(Guosheng Securities)によると、中国の国内市場で政府系企業が債務不履行に最初に陥ったのは4年前のことである。それ以来、10月末時点で22社の政府系企業が、合計484億人民元分のオンショア(中国本土)債務の不履行に陥っている。しかし、ブルームバーグが報じているように、1998年の広東国際信託投資公司(Guangdong International Trust and Investment Corp)の破綻以来、中国の大手政府系企業の中で、ドル建て債の不履行に陥ったところはまだない。しかし天津物産集団はその記録を更新する可能性がある。

 

ムーディーズは、2020年、中国における債務不履行件数が増加の一途を辿る見込みであると発表している。その理由は、中国国内の経済成長が減速していることや、借金を抱えた企業を中国政府が支援することを抑制することが予想されるため。具体的な予想値として、ムーディーズは、2020年、40〜50件の新規債務不履行が発生すると見積もっている。今年の予想件数は35件。

 

天津物産集団の債権者たちは、利回りを大幅に引き下げた新規発行社債と債務交換するか、損失を受け入れるかのどちらかを、それぞれ12月9日もしくは10日までに決断しなければいけない。決済日は12月17日頃が期限となる。

 

天津物産集団の債務不履行が確実となった今、中国のその他の政府系企業の債権者たちはどういう行動に出るだろうか?彼らは、中国政府は必ず政府系企業を救済するという前提条件の元、(ファンダメンタルズ分析を十分に行わずに)その社債を購入していた。しかしその前提条件が崩れた今、中国の政府系企業の社債には多くの売りが出ることが当然予想できる。しかしクリスマス前という、市場に流動性が著しく低いタイミングで大量の売りが殺到すれば、中国の債券市場を大きく揺るがすきっかけになることが予想される。

 

Photo via Tewoo Group’s official website 

 

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