ドイツで戦後最大の不正会計事件ワイヤーカード|不正を長年見逃した監査法人のアーンスト・アンド・ヤングは『第2のアーサー・アンダーセン』か?EUはドイツ規制当局に対する捜査を要請へ
■ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)に対して捜査を準備するEU
6月25日(木曜)、不正会計で債務超過となったワイヤーカードは破産申請を行った。かつては200億ドルの時価総額があった同社の株価は、現在、ほぼ無価値(原稿執筆時、1株当たり79セント)となっている。
ワイヤーカードの巨額不正会計事件は、2年前からFT紙のダン・マックラム記者やその他の調査チームが度々報じてきた。今回の不正会計事件で最も興味深い側面の一つは、ドイツの金融規制当局が果たしてきた役割だ。ドイツの金融規制当局は、ドイツ株式指数DAX30(GER30)に組み込まれているワイヤーカードに対する数々の疑惑を、むしろ払いのける役割を果たしてきた。
ミュンヘンにある規制当局のドイツ連邦金融監督庁(BaFin)は、これまでワイヤーカードについて調査を進めてきたFT紙の記者たちの前に立ちはだかる存在であったが、EU本部がついにこのドイツ規制当局に対する捜査の準備に着手している。
欧州大陸では、最大手の多国籍銀行を複数巻き込んだ巨額の資金洗浄詐欺が明るみになっており、EUの金融規制当局はそのことでいまだに揺れ動いている。欧州の金融システムへの信頼を回復するためには、EUの官僚たちはドイツ連邦金融監督庁(BaFin)の評判についてしまった新たな汚名を挽回するために早急に対処する必要がある。
EUの金融サービスコミッショナーであるヴァルディス・ドンブロウスキス(Valdis Dombrovskis)氏は、EUにおける市場監督責任者に対して、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)がワイヤーカードについていかに対応してきたか評価するよう要請する書面を準備しているとFT紙は報じている。ドンブロウスキス氏は、欧州証券市場監督機構(ESMA)による予備的捜査で法律違反が明らかとなった場合、EUは「EU法違反」の容疑でドイツ連邦金融監督庁(BaFin)を捜査する準備を進めるべきであると語ったとFT紙は報じている。
ドンブロウスキス氏は、FT紙に対して次のように語っている:
我々は、監督業務の怠慢がなかったか、ESMAに対して捜査するよう要請する予定である。そしてもし監督業務の怠慢があった場合、考えられる対応策の方向性についても立案するよう要請する予定である。
我々は、何が悪かったのかを明らかにする必要がある。
ドンブロウスキス氏は、ESMAからの返答の締め切りを7月中旬に設定する予定であるとも語っている。
ブリュッセルにあるEU本部は、ワイヤーカードの破綻が、投資家たちの間でEUに対する信頼を傷つけてしまったこと、そして早急に対応しなければ長期的な悪影響をもたらす可能性があることを懸念している。
FT紙は、この捜査がドイツにとって「恥」となるタイミングだと報じている:
「これは、捜査を必要とする種類の出来事であるのは確実だ。・・・我々が資本市場を深化させ、資本市場同盟(Capital Markets Union:CMU)の次の段階に進むにつれて、上場企業に投資する投資家たちの信用が重要な要素となる。・・・投資家たちは、正確で真実の金融情報を受け取っていること・・・そして金融情報についてのこうした規定は正しく監督されていると確信する必要がある」とドンブロウスキス氏は語った。
ドンブロウスキス氏が(ワイヤーカードの捜査に)欧州証券市場監督機構(ESMA)に介入するよう要求することは、ドイツにとって恥となっている。というのも、ドイツは数日後には、輪番制の欧州理事会議長に就任する予定となっているためである。ドンブロウスキス氏は、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin )が上場企業の決算書に対して「透明性指令(Transparency Directive)」として知られるEU法を強制する責任を果たしていたかが疑問であるとFT紙に対して語っている。この法律は、確実に企業にその義務を履行させるよう、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin )のような各国の監督当局にその明白な責任を負わせている。パリを拠点にした汎ヨーロッパの監視機関であるESMAは、毎年、各国の規制当局に対して「共通執行優先順位(Common Enforcement Priorities)」を発表している。
・・・(略)・・・
「ワイヤーカードの財務会計について以前から疑惑があったことを考慮すると、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin )を含むドイツの各規制当局は、今度こそはワイヤーカードの事例がEU法に対応していたかについて十分な捜査を行うことを我々は期待している」とドンブロウスキス氏は語った。
長年ワイヤーカードについて調査報道を行ってきたFT紙のマックラム記者は、ここ数年間、逆に株価操作の疑惑がかけられドイツ連邦金融監督庁(BaFin )の捜査対象になっていた。その他にも、ここ数年、マックラム記者は様々な脅迫も受けていたと報じられている。マックラム記者は、こうした「抵抗」は驚くべきレベルだったと語っている。しかし、熟練記者たちの勘は、「抵抗」が大きいほど真実は重大であるというものであり、彼らがワイヤーカードに対する調査報道を諦めることはなかった。
■ 次のワイヤーカードはどこか?
複数年にわたったワイヤーカードの不正会計疑惑が元CEOの逮捕で大団円を迎えたことで、新たな関心は、「次のワイヤーカードはどこか?」へと移っている。
上記で述べたように、ワイヤーカードの監査役であったEY(アーンスト・アンド・ヤング)は、何年も前に同社の不正を明らかにすることができたとFT紙は報道じている。そして現在、当然のようにEYが監査を行っている他の大手企業に対して疑惑の目が向けられ始めている。
現在、EYが監査を行っているS&P500の大手企業には、アップル、アマゾン、アルファベット、そしてフェースブックが名前を連ねている。これら世界規模の大手企業4社が、何年にもわたって数十億ドルもの存在しない売上金を見逃してきたEYの監査を受けている。もしこれら4社のどこかに不正会計が行われている場合、株式市場の大暴落が起きるのは火を見るより明らかだろう。
以下はEYが監査を行っているトップ23社である(時価総額順):
EYが財務監査を行っているトップ顧客企業 |
Apple Inc. |
Amazon.com, Inc. |
Alphabet Inc. |
Facebook, Inc. |
Walmart Inc. |
Intel Corporation |
Verizon Communications Inc. |
AT&T Inc. |
Netflix, Inc. |
The Coca-Cola Company |
Oracle Corporation |
AbbVie Inc. |
salesforce.com, inc. |
Abbott Laboratories |
Eli Lilly and Company |
McDonald’s Corporation |
Amgen Inc. |
Bank of China Limited |
Royal Dutch Shell plc |
Danaher Corporation |
Texas Instruments Incorporated |
TOTAL S.A. |
Lockheed Martin Corporation |
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