アーキゴス破綻による損失は最大100億ドル(1兆円以上)とJPモルガンが試算——損失は野村HDだけでなく三菱UFJ証券にも波及
アメリカのヘッジファンド、アーキゴス・キャピタル・マネジメント(Archegos Capital management LLC)が先週金曜、巨額の追証(マージンコール)に応じられず突然破綻(デフォルト)した。その余波は、3月29日(月曜)、プライマリー・ブローカーのクレディスイスと野村HDを襲ったが、翌30日(火曜)、三菱UFJ証券にもその余波が達したとブルームバーグ通信が報じた。
この記事は以下2本の続報です:
- 3月29日(月曜):「アーキゴスがデフォルトした余波で野村HDとクレディスイスに巨額の損失が発生——アーキゴスが失敗した「証券CFD(差金決済)取引」は2008年金融危機と同じ隠れたシステミック・リスクを孕む」
ブルームバーグ通信は3月30日(火曜)、次のように報じている:
三菱UFJフィナンシャル・グループの証券部門は、火曜(30日)発表した声明の中で、同社の欧州子会社で発生した損失の規模について評価中であると語った。損失の規模は、市場価格と取引の取り消し状況によって変わってくる可能性がある。
三菱UFJ証券ホールディングス株式会社は、いかなる損失も同社の事業能力や財務の健全性に重大な影響を与えるものではないと述べている。同社の担当者は、声明で述べられた以上のコメントを拒否した。
JPモルガンのアナリスト、キアン・アブホセイン氏は、アーキゴス破綻により大手投資銀行や証券会社にドミノ倒しで発生している巨額の損失について「困惑している」と記している。しかし幸運にも今回の大規模破綻に巻き込まれなかったJPモルガンのアナリストは、アーキゴス破綻によりリスクにさらされている資産規模がどれくらいなのか、計算を試みている。
米国現地時間の3月30日(火曜)朝、発表したメモで、キアン・アブホセイン氏は、野村HDが(少なくとも)20億ドルの損失が発生する可能性があることを認めた翌日、三菱UFJ証券が3億ドルの損失が発生する可能性があると発表したと記している。そして、「有力なノンマテリアルのプライマリー・ブローカー(に損失が発生していること)は私たちにとって驚きである」と本音を隠さず認めている。このように予想以上に被害が拡大していることを受け、JPモルガンは業界の通常の取引解消シナリオをはるかに超える損失を見込んでいる。
アブホセイン氏は、「この損失は、流動性のある担保を保有している事業、しかも時価評価される事業の貸出エクスポージャーに関連した、非常に重大なものである」とし、野村證券が示した20億ドルの損失の可能性や、クレディスイスが30〜40億ドルの損失を出すと推測する報道を「ありえない結果ではない」と記している。
ではJPモルガンは何に驚いているのだろうか?
アブホセイン氏は次のように記している:
通常であれば・・・業界の損失は25億ドル〜50億ドルと考えられる。しかし現在、私たちは損失が50億ドル〜100億ドル(5000億円〜1兆円)の範囲になると予想している。
つまり、JPモルガンは最大損失額の予想を通常の2倍の10億ドルに倍増している。しかし、この金額はさらに増える可能性がある。
この試算を行ったJPモルガンの推定では、アーキゴスは5~8倍の高いレバレッジ(100億ドルの株式に対して500~800億ドルのエクスポージャー)をかけており、トータル・リターン・スワップや昨日ここで紹介した差金決済取引(証券CFD取引)を利用して大規模なレバレッジをかけていた。そして、「プライマリーブローカーが当該ヘッジファンドが持つ保有資産にある集中リスクについてますます把握できなくなった」のは、まさにこのエクイティスワップが利用されたためだった。
しかしそれでもなお、アブホセイン氏は困惑していると記している:
クレディ・スイスと野村HDが現時点ですべてのポジションをまだ解消できていないことに困惑している。潜在的な損失の規模については、このような状況になった時点ですぐに発表されることが通常だからだ(特にクレディスイスの場合は、まだ影響を数字で提示していない)。
ただし、いくつかの報道では、損失の合計は最大70億ドルになる可能性があると予想している。
とはいえ、JPモルガンのアナリストであるアブホセイン氏は、遅くとも週明けにはクレディスイスから完全な情報開示が行われると予想しており、信用格付け機関の発表にも注目している。また、JPモルガンの競合他社に対する最も厳しい非難として、アブホセイン氏は、「1)取引解消が遅いこと、2)ゴールドマンサックス/モルガン・スタンレーが保有している同様のエクスポージャーに比べて大幅にレバレッジが大きくかけられていた可能性があることを考えると、(クレディスイスや野村HDでは)リスク管理が不十分だったことが問題である可能性がある」と述べている。
しかし別の見方をすると、ゴールドマンサックスやモルガン・スタンレーは、同業他社との結束を乱し、3月26日(金曜)朝、いち早くアーキゴスの保有株をブロック取引で大量に清算し始めたことが、この2行の損失額が最小限に抑えられた理由であると言える。それとは対照的に、クレディスイス、野村HD、そしてウェルズファーゴは、保有株の売却に出遅れたため、過去最大の巨額損失に見舞われた。
このウォール街の投資銀行の間で行われた「裏切り行為」を、的確に説明した風刺画がツイッターに投稿されている:
$GS $CS pic.twitter.com/w9S0HpweGG
— Kenneth Dredd (@KennethDredd) March 30, 2021
(Photo credit: @KennethDredd)
【訳】
(1枚目の写真)
建物から落ちそうになっているビル・ホワン(アーキゴスの運用担当):「神よ!あー!」
マージンコール(追証)の発動と共に災難発生
ビル・ホワンの手をつかむ人の腕に記されたメッセージ:「800億ドルのエクスポージャー」
* * *
(2枚目の写真)
ビルの屋上のいる人=クレディスイス:「大丈夫だ、俺が助けてやる!大丈夫だ、ブラザー」
* * *
(3枚目の写真)
3人目の男性=ゴールドマンサックスが現れ、「マージンコール(追証)」と記された木材でアーキゴスのビル・ホワンを落とそうとする
「おいやめろ!」
アーキゴスの破綻により被害を受けた銀行の中で、クレディスイスが最も損害金額が大きくなると見積もられている。JPモルガンは、クレディスイスの損失総額は30億ドル〜40億ドルと推測する報道は正しいと見込んでいる。さらに、グリーンシル・キャピタル破綻のスキャンダルにより、クレディスイスにはさらに10億ドル〜30億ドルの訴訟費用が発生するとJPモルガンは見込んでいる。報道が正しい場合、クレディスイスはこの先2年間は自社株買いを中止せざるを得ないだろうとJPモルガンは予想している。これは2023年1月にBIS規制のバーゼルIVを導入すると想定した予想。
そして最後に、JPモルガンのアブホセイン氏は、多くの投資家が抱いている重要な疑問に答えようとしている。つまり、アーキゴス・キャピタルの保有株に何が起こったのか?という疑問だ。
アーキゴス・キャピタルと紐づいている株式の価格は、先週頭以来、平均39%下落したとアブホセイン氏は記している。ブルームバーグ通信の報道によると、アーキゴス・キャピタルは、8社のオンライン企業及びエンターテイメント関連企業(GSXテクエデュ、バイアコムCBS、ディスカバリー、iQIYI、テンセント・ミュージック、VIPshop、バイドゥ、ファーフェッチ)の保有株を大量に強制売却させられた。アーキゴスが保有する投資ボジションで損失が発生したため、それをカバーするためだった。そしてアーキゴスが追証(マージンコール)の要求に応えられずデフォルトすると、アーキゴスに貸し付けていた投資銀行が担保として保有する株式を大量にブロック取引で売却し始めたことで、売りがさらに強まった。そのことが株価の下落をさらに招いた。
最新の公開情報によると、上記の8社へのエクスポージャーを最も多く抱えていた銀行は、モルガンスタンレー、クレディスイス、ゴールドマンサックス、野村HD、そしてそれよりも小規模のエクスポージャーを抱えていたのはUBSとドイツ銀行となっている。先週金曜、バイアコムCBSとディスカバリーは、1日の下落率としては過去最大を記録し、各社それぞれマイナス27%以上下落した。これら8社の株式の1日の取引量は先週金曜にピークに達し、過去90日間の移動平均の13倍に達している。この8社の株式は29日(月曜)にも売りが続き、この日平均でマイナス6%下落した。
なぜこのようなことが起きてしまったのかと、規制当局はすでにプライマリー・ブローカーに厳しい質問を始めているとブルームバーグ通信は報じている。
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